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 パートタイマーや契約社員など非正規労働者として働く人が増え続ける中で、こうした非正規社員を正社員に登用する動きが昨年あたりから活発になっている。少子化などもあり、企業にとって必要な人材を確保するのは難しい。優秀な非正規社員の定着を図り、キャリアアップの機会を与えて力を発揮してもらう狙いだ。

「以前は上司の指示に従うだけでしたが、今は自分の思うように売り場をつくれるし、スタッフも指導できる。責任は感じますが、やりがいがある」。明るく話すのはイトーヨーカドー大船店(神奈川県鎌倉市)の鮮魚担当マネジャー、谷口由佳さん(33)だ。

鮮魚売り場一筋。昨年9月にイトーヨーカ堂の正社員になった谷口由佳さん(神奈川県・大船)

鮮魚売り場一筋。昨年9月にイトーヨーカ堂の正社員になった谷口由佳さん(神奈川県・大船)

谷口さんは高校時代に神奈川の自宅近くのイトーヨーカドーの鮮魚売り場でアルバイトを始めた。短期大学進学後も続け、卒業後はパート社員に。2006年に店限定の準社員になり、昨年5月に同社が初めて実施した正社員転換試験に合格した。9月に正社員になり、今の職場に管理職として異動した。

同社は07年にパート活用の人事制度をつくった。約3万5千人のパート社員を3つに区分し能力に応じて処遇する。ステップアップの道も用意し、パートから月給制で1年契約の準社員に転換、さらには転居を伴う転勤があり雇用期限の定めがない正社員への転換も可能となった。

だが人事室の田中弘樹総括マネジャーによれば、パートから準社員への転換は07~14年で500~600人いたが、準社員から正社員へは年に1人か2人。基準もはっきりしなかった。それを昨年から本格化した。準社員の中で上位評価を得ている人に受験資格を与え、年に1回、筆記試験と面接を行って正社員に登用する。昨年5月に初めて試験を実施し、9月に35人の正社員が誕生した。

「パート社員でキャリア志向の人が増えている。会社にとっても能力や実績がわかっている人に活躍してもらうメリットは大きい」と田中総括マネジャー。もちろん前提には人材不足で採用が難しくなっている事情がある。

三越伊勢丹ホールディングスも昨年から正社員転換を活発化している。同社には時給制で1年契約のフェロー社員と月給制で1年契約を3回繰り返すと無期雇用となるメイト社員、雇用期限の定めのない正社員の3種類の社員がいる。フェローは販売、事務などを担い事業所が採用する。メイトは本社契約で職種は原則として販売。正社員は転勤も職種変更もある。

これまでも転換制度はあったが、14年度からメイトが無期雇用になる時に正社員への転換の意思を確認する新制度を導入した。メイト社員は店舗間の異動がない働き方を選べば正社員への転換試験は受けられない。異動のある働き方なら受験資格を得られる。子育てが一段落するなど、事情が変われば変更も可能だ。

「メイト社員の9割は女性で、仕事への考え方も多様。本人のキャリア志向に沿って応援しようとの狙い」(人事部の佐々木大マネージャー)

正社員になれば給与も上がり仕事の幅も広がる。転換試験は年1回で、今年4月には70~80人が正社員になる。佐々木マネージャーは「販売がよくわかっている人に商品開発や売り場マネジメントでも力を発揮してもらう。さらに増やしていきたい」と話す。

「現在のパート、アルバイト社員4万人のうち、1万6千人をいずれ地域正社員にする。今も毎月、全国で面接会を行っており3月1日までに約5千人が地域正社員になる予定だ」。こう話すのはユニクロを展開するファーストリテイリング人事部の古河健介部長だ。

同社は07年に導入した地域正社員制度を昨年から本格的に活用し始めた。地域正社員は転居を伴う転勤がない正社員。当初はフルタイムに限っていたが、昨年から週20時間以上働き、将来フルタイムで土・日曜日も働く意思があれば可能とした。メーンターゲットは女性、主婦だ。

「国内に860店舗を出店し、これからは店あたりの収益を高める必要がある。カギを握るのがスタッフのスキルや経験。生き残りのための経営戦略として、今後は地域正社員を中心に店を回してもらう」と古河部長。転換のハードルは面接のみ。働き続けたいとの意思確認ができれば登用される。

地域正社員になれば、期限の定めのない雇用となり賞与や社会保障もつく。フルタイムで働いた場合、年収は約2割アップする。企業にとってはコスト増だが「採用や教育にかけている費用を考えれば十分吸収できる」(古河部長)。転換後の研修も積極的に行い、費用を上回るメリットが期待できるとみる。

総務省の「労働力調査」によれば、パートやアルバイトなど非正規労働者の数は増え続け、13年で全労働者の36.7%に達する。一方、厚生労働省の調査では約半数の企業が有期契約労働者やパートから正規への転換制度を持っている。約5割の企業には職種や労働時間が限られた正社員がおり、これら「限定正社員」から正社員への転換制度をもつ企業も7割ある。

今後、労働力不足が進めば、若年層や主婦を中心に正社員化の動きが加速しそうだ。

(編集委員 岩田三代)

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