コメディー苦戦の米国テレビで、黒人家族モノが成功
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
視聴率が稼げない新番組に対しては、恒例ともいうべき容赦のない打ち切り宣告が続いている米国のテレビ業界。とりわけコメディーは、今期も第1ラウンドは苦戦しました。
これまで放送から数話で打ち切りが決定した場合、発注されて撮影が終わっているエピソードはお蔵入りになってしまうのが通例でした。が、例えば早々に打ち切られたABCの今期の新作コメディー『Selfie』は、近年破竹の勢いの動画配信サービスの大手ネットフリックスが撮り切ったエピソードを全話配信するとのこと。もしここで一定数の支持が得られれば、地上波では難しくとも、コアなファンに向けて動画配信サービスで復活するという線も、今後はあり得そうです。
そんな中、コメディーの新番組で数少ない成功作のひとつがABCの『Black‐ish』です。主人公は、ビバリーヒルズの豪邸で暮らす、祖父と息子夫婦、その4人の子供たちのアフリカ系アメリカ人ジョンソン一家。広告代理店に勤める家長のドレは、最近昇進を果たしますが、素直に喜べません。なぜなら、彼が任された新部門の名前に使われているUrbanという単語が、アメリカの低所得の有色人種を総称する言葉を思い出させて、人種差別的だと感じたからです。
ABCならではの意欲作
麻酔医の妻レインボーは白人と黒人のハーフですが、夫が黒人として成功していることを心から誇りに思っています。ところが、生まれた時から白人社会、富裕層の中で育った子供たちは、黒人差別撤廃運動世代の祖父や父親の苦労や気持ちが理解できません。そんな子供たちの言動に、ドレは黒人文化や伝統が失われている…と焦りを感じて、子供たちに黒人らしく生きることを望む一方で、黒人であるとはどういうことなのかを自問自答していきます。
しばしば危険だなと思わせるほどの差別ネタ、自虐ネタで笑わせるブラック・ジョークは、米国ドラマでは珍しくありません。本作はその裏側にある、移民大国アメリカが抱える様々な人種への偏見や差別、さらには「アメリカ人」の定義とは…などの問題提起を読み取ることができ、考えさせる作りとなっています。
ABCは、『LOST』や『デスパレートな妻たち』、現在は『ワンス・アポン・ア・タイム』など、独創的な作品に毎シーズン挑戦し続けています。失敗作も少なくありませんが、地上波では意欲的な番組作りが減少している状況下で、こうしたABCの方針、姿勢は大いに賛同できるものです。
………………………………………………………………………………
●今月のオススメドラマ
『HELIX‐黒い遺伝子‐』
人類の存亡をかけた、謎のウイルスとの闘い
極限状態に置かれた人々が、謎のウイルスの脅威に直面するパニック・サスペンス。全米ではsyfy(サイファイ)チャンネルで、2014年1月よりシーズン1全13話が放送されて話題を呼び、2015年1月からシーズン2の放送が始まったヒットシリーズだ。
北極にある製薬会社の研究所で感染症のウイルスが発生し、感染した者は人を襲う凶暴な媒介者となり急速に感染が拡大。疾病予防センター(CDC)から、実の弟ピーターが感染者となってしまったアラン博士をリーダーとする、CDCのチームが派遣される。チームは研究施設の責任者ヒロシ・ハタケらと協力して、ウイルスとの闘いと謎の解明に乗り出すが…。
閉ざされた空間で、それぞれの思惑も見え隠れするウイルスとの攻防戦は、ホラーの要素もありつつ人間同士のスリリングな心理戦に見応えがある。アラン役は『4400‐フォーティ・フォー・ハンドレッド‐』のビリー・キャンベル。『エクスタント』や『リベンジ』など米国テレビドラマでも活躍する真田広之が、ハタケ役でレギュラー出演している。製作総指揮は、『LOST』のスティーヴン・マエダ、『GALACTICA/ギャラクティカ』のロナルド・D・ムーアほか。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年2月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。