エンタメ!

裏読みWAVE

カレーなぜ変身? 印→英→日、国民食の秘話 編集委員 小林明

2014/10/3

 「すごくおいしいですね。一体、これはなんという料理ですか?」

 インド人に日本のカレーを食べさせると、こんな感想がよく返ってくるという。実際に日本と本場インドのカレーと食べ比べてみると味も形状も大きく違っているためだ。

インドカレー
日本カレー

■日・印で大きく違うカレー

 香辛料のよく効いた汁気の多いソースをパサパサした細長いインディカ米や小麦粉を焼いたナンで食べるのがインドの典型的なカレー。これに対して、とろみのあるソースをモチモチしたジャポニカ米にかけて食べるのが日本の典型的なカレー。

 両者の大きな違いはカレーの「とろみ」。インドのカレーは汁気が多くてサラサラしているが、日本のカレーは小麦粉を加熱することでとろみを出しているのが特徴。インドではカレーに小麦粉を使うことはほとんどないという。

 では、どうして日本のカレーはインドのカレーから大きく変貌を遂げたのだろうか?

 取材を進めてみると、その背景に帝国主義や民族の独立運動など世界史のダイナミックなうねりが隠されていることが分かってきた。今回は「国民食」として日本の食生活にすっかり浸透しているカレーの歴史と謎を追いかけてみよう。

■小麦粉で「とろみ」を出したワケ

 西洋料理としてカレーが日本に伝来したのは明治初期のこと。

 「カレーライスの誕生」(講談社学術文庫)の著者、小菅桂子さんによると、1872年(明治5年)発刊の「西洋料理指南」に当時のカレーのレシピが記載されているという。

 口語に要約すると「ネギ、ショウガとニンニクのみじん切りをバターで炒(いた)めて水を加え、エビやカキ、カエルなどを入れて煮て、カレー粉を加えたら1時間さらに煮て、塩で味を調え、水溶き小麦粉を入れる……」。

 この時点ですでにカレーにとろみを出すため、水でといた小麦粉を入れていたのだ。小麦粉を加熱するとでんぷんがのり状に変化する。あの独特のとろみはこうして作られていたというわけ。

 なぜ日本のカレーは小麦粉でとろみを出すようになったのだろうか?

 「西洋料理の影響を受けているからですよ」。業界関係者はこう口をそろえる。

■英国で西洋風煮込み料理に変身

 カレーが日本に伝来した歴史を振り返ってみよう。

 インドの郷土料理として食べられていたカレーは植民地統治を通じて英国に伝わり、明治期に「文明開化」の1つとして英国経由で日本に伝来した。だから、インドから日本に直接伝わったわけではない。日本のカレーは、西洋風に様々にアレンジされた英国のカレーが基礎になっている。

 英国にカレーが伝わったのは1772年ごろ。

 英国人ヘイスティング(後に初代ベンガル総督)がカレーの原料と米を持ち帰り、それをもとにカレー粉が発明され、やがてビクトリア女王にも献上されたという。

 このカレー粉が発明されたおかげでカレーの調理法は大きく変わる。インドでは毎回、すり鉢などで多数の香辛料を混ぜて調合し、すりつぶしてカレーを作るのが基本だが、カレー粉が発明されたことでこの手間が省け、どこでも手軽にカレーが作れるようになったのだ。

 さらに大きな変化はとろみを出すための小麦粉の活用。

■カレー粉・小麦粉・ライスが基本

 1861年に出版された「ビートン夫人の家政読本」には、カレー粉の作り方とともに、小麦粉を使ってカレーにとろみを付ける調理法が多数紹介されている。つまり、英国で普及したカレーは、油脂で小麦粉をいためた「ルー」を使った西洋風煮込み料理にすでに姿を変えていたのだ。

 こうして、カレー粉と小麦粉を使ったとろみのある西洋風カレーが英国経由で日本に伝わり、独自の進化を遂げた。だから、日本のカレーは本場インドとは異なる風味や形状になったというわけ。

 ちなみに、インドでは大ざっぱに北部ではナン、南部では米とともにカレーが食べられているとされる。英国人ヘイスティングが駐在していたのはベンガル地方。ここはインド北東部ではあるが米でカレーを食べるのが習慣だった。そのため、英国に伝わった時点でカレーとライスがセットになったようだ。

 これがそのまま日本のカレーライスの起源になる。

エンタメ!新着記事

ALL CHANNEL