「カレーの矛盾」が原動力? 即席カレー戦国史編集委員 小林明

戦後日本のカレー文化は、1950年ごろに国内の食品メーカー各社が固形即席カレー(カレールウ)の発売を相次いで始めてから始まった。「全国各地で様々なメーカーが入り乱れて市場をつくり出した群雄割拠の市場創生期だった」(エスビー食品)という。

それと同時に第1次即席カレー戦争(1950年~60年代半ば)が勃発する。

きっかけは板チョコ技術を生かしたグリコ「ワンタッチ」

画期的な“事件”は60年に江崎グリコが「ワンタッチカレー」を発売したこと。

それまでの固形即席カレーは固いせっけんのような形状で包丁などで少しずつ削りながら調理するのが普通だったが、「ワンタッチカレー」は「板チョコのようなプレート状で、そのまま鍋に入れても溶けるようにした」(江崎グリコ)。こうして家庭で手軽にカレーが調理できるようになったのだ。

6枚入り(30円)と10枚入り(50円)。あまくち・からくちの2種類(からくちは61年発売)。簡便性を強調するために「ワンタッチ」と名付けた。家事に追われる主婦にとっては心強い味方になったようだ。製法はグリコの板チョコやキャラメルの製造技術を応用した。すぐに大量消費時代の波に乗ってヒットし、市場規模が一気に拡大するきっかけとなった。

リンゴとハチミツの甘さで子どもをつかんだハウス「バーモント」

続く大きな節目は、ハウス食品の「バーモントカレー」の登場。

東京オリンピックに向けて日本経済が高度成長の道のりを疾走していた63年のこと。辛さが苦手な子どもも食べやすいようにリンゴとハチミツを入れて甘みを生かしたマイルドな風味にした。120グラム入り60円。子どもたちの圧倒的な支持を得て、現在でも市場の3割以上という最大シェアを誇る大ヒット商品となる。

エスビーは高級カレー「ゴールデン」で大人にアピール

次に登場したのが、エスビー食品の「ゴールデンカレー」。大人向けの高級カレーの草分けで66年に発売された。価格は高めの100円に設定。30数種類ものスパイスを調合し、豊かな香りと味わいを売り物にした。「高度成長を経て生活水準が急速に上がったことをにらんだ商品戦略」(エスビー食品)だった。

幻のアイデア商品「モナカカレー」(エスビー食品)。とろみを出すためにもち米を使ったモナカで包んだ

残念ながら販売競争には生き残れなかったが、ユニークな「幻のアイデア商品」もある。

その代表が59年にエスビー食品が発売した「モナカカレー」。とろみを出すためにもち米を使ったモナカの皮でパウダー状のルウを包んだのが特徴。一時的にはヒットするが、「ワンタッチ」の簡便性の勢いなどに押されて伸び悩んだ。だが、その発想やネーミングのおもしろさから一部のカレーマニアの間では根強い人気があり、復活を求める声も少なくない。

第1次戦争を経て、即席カレー業界は「群雄割拠」の乱立状態からハウス・エスビー・グリコによる「3強」の時代に移行する。

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