頬を赤らめこちらを見つめる「顔デカ」キリギリス
コスタリカ昆虫中心生活
赤みをおびた顔で、葉っぱの陰からそっとこちらをうかがうキリギリス。顔がデカイ。4頭身ほどだろう。独特な雰囲気があって、とても"おちゃめ"なやつだ。でも撮影しようとすると木や葉の陰にかくれてしまう。恥ずかしがり屋さんなのか。
「写真を撮らせて下さい~」と、首根っこをつかんで葉の上に乗せようとした。その瞬間、「あたたたたた~っ!」。大きな黒いアゴで、指をガブリとかまれてしまった。
まさか、あんなにも首が回るとは…。このずんぐり体形のキリギリスの体のしなやかさを、身を持って学んだぼくだった。
今度は、枝の棒を使って葉の上に載せ、無事、写真を撮ることができた。その表情は、「ウッシッシ~」と余裕の笑みを浮かべているようにも見える。
野外調査に同行していたキリギリスの分類学者のピーターに見せると、「頬の模様が赤みをおびたのは初めて。普通は白色なんだが…」と言う。もしかして新種か、と思いきや、キリギリスでは同じ種でもこの程度の色の違いが見られるという。なるほど、これも勉強になりました。
ハチをかわす幼虫のスゴ技
遠出の調査もなく、日々、自宅の裏庭に生える植物に目を向けていたある日のこと。勢いよく育つシダの一種の葉のあちらこちらに、白い線があるのを見つけた。
「なんやろうなぁ?」
白い線の端には、茶色いふたの付いた1ミリほどの穴がある。葉を裏返すと、なんとその穴のそばに高さ5ミリほどの白い棒が垂直に立っていて、棒の先からクモの糸のようなものがテントみたいに張り巡らされているではないか!(下写真:葉を裏返して横から見たところ)
「なんじゃこりゃ!」
さらによく見ると、棒の付け根から穴のあたりに、体長5ミリほどの白い幼虫が待機している。テントはこの幼虫が造ったようだ。白い線が付いている葉をどんどん裏返してみると、その全てにテントが張られている。
「なんのために?」
試しにテントを軽く触ってみた。すると幼虫はシャシャッとバックし、おしりから穴を通り抜け、葉の表に出てきた。そしてまた裏のテントの方へ戻っていった。どうやらテントは、外敵の到来を感知する役割を果たしているようだ。
実際にアシナガバチが襲ってきたときも、この幼虫はまるでハチをからかうかのように葉の表裏を出入りしていた。
飼育してみると、この幼虫はニセマイコガの一種と判明したが、専門家によると、こんな大掛かりな仕掛けを造って逃げ隠れする種は、これまでに報告されていないということだ。新種の可能性が高い。不思議なことに、このシダの種はどうも外来種のようで、もともとコスタリカには生えていなかった。
昆虫学者。1972年、大阪府生まれ。小さいころから、生き物を相手にわが道を行く。中学卒業後、単身、米国の高校に入学。大学では小さい頃の生物に対する思いが高まり、生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカ大学の調査員として、米国政府のハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトに参画する。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
[Webナショジオ 2011年9月13日、同9月27日付の記事を基に再構成]
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