実は紙が主原料

花色鉛筆開発のきっかけとなったオープンプロジェクトの募集テーマは「廃棄古紙を主原料とした環境配慮素材MAPKA」で、14年11月から15年1月にかけてアイデアを集めた。花色鉛筆は、約140件のアイデアの中から選ばれた。食器や文房具、アクセサリーなどさまざまなアイデアがあった。
TRINUSのプロデューサーである金子優実氏は、「数あるアイデアの中から花色鉛筆が選ばれた理由は、ユーザー評価が特に高く、市場にもマッチしていたから」と話す。「メーカーで問題なく製造が可能であること」「当該技術の必然性がある(この技術でないと実現できない)ユニークな製品であること」といった理由も大きかった。
MAPKAは、環境経営総合研究所(東京・渋谷)が開発した新素材。プラスチック原料と微細な紙パウダーを混成しており、従来のプラスチックと同様に、射出成型、押出成型、シート成型、サーモフォーミングによる成型などが可能だ。主原料はあくまで「紙」。原料となる紙には廃棄古紙をリサイクルして使用しており、地方自治体にもよるが廃棄する際も紙製品として処理できるという。花色鉛筆の削りかすも可燃ゴミとして処分できる。
花色鉛筆の軸部分は、きれいな花弁を表現するためにかなり複雑な構造をしている。こうした複雑な形は、柔らかく折れやすい木材では実現できなかったという。MAPKAは一般的なプラスチックと同じように成型可能で、同時に、プラスチックより環境性能に優れる。これを素材にすることで、デザイン性と環境配慮を両立させた。
製造時の素材ロスを減らすこともできた。通常の木製の鉛筆は、製造時に原料の木材から多くの削りかすが排出される。花色鉛筆の場合は、MAPKAを加熱して溶かし、金型に押し込んで成型する。必要な分の素材だけを使用するため、素材に無駄が出ないのだという。
「花色鉛筆の成型方法は、それまでのMAPKAの成型方法と異なっていたため、試行錯誤が続いた。環境経営総合研究所と成型メーカーとで協力しながら、素材改良とテストを5回以上繰り返した。納得できる成型ができるまでに、約10カ月の期間を要した」(金子氏)

花色鉛筆の「環境に優しい廃棄古紙の新素材を活用している」「日本を代表する伝統的な『花のかたち』と『花の色』を表現している」という2つの特徴は、フランスや米国を中心に海外でも高く評価された。海外の美術館のミュージアムショップやパリのセレクトショップ「Merci(メルシー)」などでも販売し、人気を博した。19年には、ドイツのデザイン賞「iF Design Award 2019(プロダクト・オフィス分野)」を受賞している。