ブータンマツタケの炭火焼き。ふつふつと玉の汗が染み出す

売り切れなかったマツタケは極上炊き込みご飯に

ちなみに、ブータンでもマツタケを食べるが、日本のように香りを楽しむわけではない。普通のキノコ同様、同地の料理には欠かせないトウガラシと一緒に調理してしまうのだとか。日本では古くより愛されてきたマツタケの香りは理解されないようで、「日本人がとてもありがたがるので、ブータンではがんに効くんじゃないかなどと、誤解している人もいます」と植山さんは苦笑する。

太月で入荷したばかりのマツタケを炭火で焼いてもらった。収穫から時間が経つと、だんだん色が茶色くなってしまうのだが、目の前のマツタケは真っ白。ほどなく身から、玉のような「汗」が噴き出した。新鮮である証拠だ。大ぶりのマツタケを裂くと、ふわぁっと香りが立ち上る。ほおばるとエキスがじゅんわり染み出し、だしのようなうま味が口の中に広がった。密度が高くしまった身の食感もたまらない。

鮮度命の食材であるからには、どうしても売り切れなかったマツタケも出る。そのため植山さんは、望月さんと共にレトルトのマツタケご飯も開発した。1箱に1~2袋、マツタケご飯の素が入った商品で、用いるマツタケの量にこだわり1袋に100グラム入っている。

写真は「日本料理 太月のつくる ブータン松茸だらけご飯 薄口濃口食べ比べセット」(4514円)。薄口と濃い口のマツタケご飯の素が、各1袋ずつ(各1合用)入っている。1袋入り(2376円)もある

「普通のマツタケご飯の素の5倍は入っていると思います。一般的なマツタケご飯の素は、量が少なくてもマツタケが入っているように見せるため、めちゃくちゃ薄くこれをスライスするんです。でも、これだとマツタケならではの味も食感もでない。開発した商品では、なるべくサイコロのように切り、スライスも厚めにしました」(望月さん)

太月で調理した具を工場で再度加熱しレトルトパウチにしたもので、開発には1カ月以上かけた。味付けは、濃い口と薄口の2種類で、「どっちがいいかと決められず、結局2パターン作りました」と植山さん。薄口はマツタケの香りを、濃い口はマツタケの味わいがご飯にもしっかり染み込むため、ご飯自体をより楽しんでもらえるという具合で、それぞれにファンがいるという。

太月と開発したレトルトのマツタケご飯の炊き上がり(写真は薄口で2合分)。食感までしっかり味わえるマツタケがどっさり

実はブータンのマツタケの旬は日本より早く、7月中旬から9月まで。太月では、ブータンのマツタケづくしのコースを提供しているが、毎年これを楽しみにする客がいるという。7月になると「そろそろマツタケの季節だ」と心待ちにするのだろう。マツタケは秋の味覚――これからは、この旬の感覚も変わってきそうだ。

(ライター メレンダ千春)

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