
「うまみの大三角形」を構築
店舗入口付近には、「チャーシューつけ蕎麦」「つけ蕎麦」「チャーシュー中華蕎麦」「中華蕎麦」の名が刻まれた4つのボタンを備えた券売機が鎮座。中でも「つけ蕎麦」は、麺で魅せる1杯を志す上野店主が、看板メニューとして強く推す一品だ。同店への訪問が初めてなら、「つけ蕎麦」を注文するのが定石だろう。
オーダーから提供までの時間は10分程度。スープは、豚(豚ゲンコツ・豚頭)、鶏(鶏ガラ・モミジ)、牛(牛骨)の3種の動物系素材のみを使う。素材ごとに熟成方法や炊き込み時間を調整し、味に変化を付けやすい魚介を用いることなく、重層感あるうま味を引き出すのに成功している。
定番の「豚」と「鶏」だけでなく、「牛」も素材に組み込むことで、揺るぎない「うま味の大三角形」を構築。そこに豊潤極まりないカエシが手を貸すのだから、まさに鬼に金棒である。

スープと合わせる自家製極太麺の風格も規格外。誰が口にしても甘美な味わいが感じ取れるよう、製麺過程で大量の生卵をミックス。麺先に純白の塩を付けて啜り上げれば、濃密な芳香がふわりと拡散。そのクオリティの高さたるや、塩だけで食べ尽くせてしまえるほどだ。スープと麺の相性も完璧で、まさに濃厚つけ麺の鑑とでも言うべき1杯となっている。
チャーシューの完成度が極めて高い点も、特筆に値する。2時間かけて炭火でこんがりと焼いた後、100分かけて醤油ダレでじっくりと煮込む高度なギミックを駆使。香ばしさと柔らかさを見事に両立させたチャーシューは、もはや超一流の肉料理と考えて差し支えない。ラーメン好きの間でも、これは大きな話題となっている。
「これからもお客様に感動を与えられるよう、研さんしてまいります」と、兜の緒を締める店主。志の高さから提供する1杯の味に至るまで非の打ち所がなく、名店へと成長を遂げる可能性が濃厚な同店。今年最大級の新店の一つになるのは間違いないだろう。
(ラーメン官僚 田中一明)
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。