最悪なら地球壊滅? 小惑星ベンヌ、衝突の確率高まる

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

小惑星ベンヌ。ベンヌが今後300年以内に地球に衝突する可能性は依然として低いものの、米航空宇宙局(NASA)の科学者たちは、その確率がこれまで考えられていたよりもわずかに高いことを明らかにした(VISUALIZATION BY KEL ELKINS, NASA GODDARD SPACE FLIGHT CENTER)

コマのような形をした岩だらけの小惑星ベンヌは、何億年もの間、ほぼひとりぼっちで太陽の周りを回ってきた。直径約500メートルのベンヌが地球に差し迫った脅威を与えることはない。だが数百年後には、地球に衝突する可能性がわずかにある。

2021年8月10日付で学術誌「Icarus」に掲載された論文で、科学者たちはまず米航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「オシリス・レックス」のデータを用いてベンヌの軌道を正確に計算した。さらに、現在から2300年までについて、地球に衝突する危険性を分析した結果、その確率は従来の推定よりもわずかに高い1750分の1(0.057%)だとわかった。

危険な接近は、ほぼすべて2100年代後半から2200年代前半に集中している。衝突する確率が最も高い日は2182年9月24日火曜日の午後(協定世界時)で、その確率はおよそ2700分の1(0.037%)だ。

綿密に小惑星の位置を特定

NASAジェット推進研究所(JPL)のナビゲーション・エンジニアであるダビデ・ファルノッキア氏が率いるチームは、2019~2020年に数十回にわたって約2メートルの誤差で地球・ベンヌ間の距離を測定し、推定値を改訂した。この測定の精度は、米ニューヨークのエンパイアステートビルからフランス、パリのエッフェル塔までの距離を数十ミクロンの誤差で測定するような高さだ。

「ベンヌは太陽系で最もよく調べられている小惑星です」とオシリス・レックスの主任研究員で、この論文の上席著者である米アリゾナ大学の惑星科学者ダンテ・ローレッタ氏は言う。「今後100年間のベンヌの位置が数メートルの誤差でわかっているのです。地球の軌道でさえ、ここまで明確にはわかっていません」

地球近傍小惑星の専門家であるアリゾナ大学の惑星科学者エイミー・メインザー氏は、今回の研究には参加していないが、研究チームの「この上なく綿密な」計算を称賛している。「(小惑星の)将来の位置をどこまで正確に予測できるかは、現在の位置をどれだけ正確に測定できるかで決まります」と氏は言う。「彼らは極めて正確に測定しました」

衝突の可能性が少し高くなったとはいえ、夜も眠れなくなるほど心配するレベルではない。ベンヌが今後300年以内に地球に衝突しない確率は99.9%以上であり、たとえ衝突しても、6600万年前のチクシュルーブ衝突のように大量絶滅を引き起こすおそれはない。そのとき衝突した小惑星の大きさは約10キロメートルだったと推定されているが、ベンヌの直径は約500メートルしかない。

それでも衝突した地域は壊滅的な打撃を受けることになる。衝突した場合のエネルギーはTNT火薬11億トン分以上に相当する。2020年にレバノンのベイルートの港で起きた大規模な爆発のエネルギーの約200万倍だ。

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