トーロンマンの最後の食事の主な材料とその相対的な量を示した写真(魚を除く)。(1)大麦(2)タデの一種(3)アマ(4)野生のソバ(5)砂(6)ナガミノアマナズナ(7)アカザの一種(8)オオツメクサ(9)タヌキジソ(10)マキバスミレ(PHOTOGRAPH COURTESY MUSEUM SILKEBORG)

焦げたポリッジ

分析の結果、トーロンマンが最後に口にしたのは、大麦、アマ、野生の雑草の種、魚などを使ったポリッジ(かゆ)であったことが示された。

これまでの調査で、ヨーロッパの鉄器時代のものと考えられている他のボグボディー12体について、同様の分析がなされている。それによると、当時の人々は穀物を主とした食事をし、ときどき肉やベリーを食べていたという。トーロンマンの最後の食事も、ほぼ同じようなものだ。ただ、鉄器時代の食生活に関するデータの大半は、保存状態の良いボグボディーから得られたものであり、これだけで当時の典型的な食事とは断言できない。

研究者は、トーロンマンの最後の食事がどのように調理されたかも特定している。炭化したポリッジの微細な断片が確認できたため、ポリッジは土器で調理され、やや焦げていたことがわかったのだ。

「平均的な食事がどんなものだったか、おおまかにつかめることはありますが、この研究では、実際にこの人物が亡くなったその日に何を食べていたのかをつきとめました」とニールセン氏は言う。「こうした事実をカギに、彼の死がどのように起こったのか、真相により迫ることができるのです」

ニールセン氏のチームは、トーロンマンが幻覚剤や酩酊(めいてい)剤、鎮痛剤などの特殊な物質を摂取していたかどうかも調べた。もし見つかれば、彼の食事が儀式の一部だった、あるいは苦しみを緩和するためのものだった可能性が出てくる。

ちなみに、別の有名なボグボディーであるリンドウマン(紀元1世紀ごろに現在のイングランド北西部で殺害された)についての過去の研究では、消化管からヤドリギが見つかっている。確かに古代にヤドリギが医療目的で使われていたことはわかっているが、リンドウマンの体内から見つかった量は少ないため、ヤドリギの薬効成分を摂取する目的で食べたわけではないだろうと、研究者らは述べている。

また先行する研究に、グラウベールマン(トーロンマンと同時代にデンマークの泥炭地に捨てられた遺体)に残っていた麦角菌について調べたものがある。麦角菌は穀物に寄生し、人間が食べると精神に深刻な被害をもたらすのだ。ただ、こちらも人体に影響を及ぼすほどの量は見つからず、偶然口にしてしまったものだろうと考えられている。

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