舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音を20年来愛していた。しかし音は、ある秘密を抱えたまま他界してしまう。2年後、広島の演劇祭で演出を任された家福は、愛車で現地へ。そこで出会ったのは、寡黙な専属ドライバーの渡利みさきと、かつて音に紹介された若手俳優の高槻耕史だった……。
映画『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の同名短編小説を『寝ても覚めても』の濱口竜介監督が映画化。今年のカンヌ国際映画祭脚本賞、国際批評家連盟賞ほか、4冠の快挙を成し遂げた話題作だ。
「原作を読んだのは13年。単に面白いというより、『分かるな』と思いました。寡黙な家福とみさきが車内でポツポツ話し、距離を縮めていく。2人とも同じ方向を向いているからこそ、普段言わないことを話せる経験が、自分にもあるような気がして。また家福は、高槻が妻と寝ていたのではないかと疑っているわけですが、あるとき、嘘とは思えない高槻の言葉を聞く。その高槻の、人の深いところから出てくるような声にも聞き覚えがある気がして、『分かる』と思ったんです」(濱口監督、以下同)
プロデューサーから村上小説の映像化を提案されたことを機に、『ドライブ・マイ・カー』の映画化を着想。短編集『女のいない男たち』に収められた『シェエラザード』と『木野』を交えて脚本化した。
「家福の妻がどんな人間であったかを知るヒントとして『シェエラザード』を、家福の物語のその先を描いたものとして『木野』を採用しました。『このような形で映画化したい』と村上さんに手紙を送って、許可をいただきました」
家福役には、「抑制の効いた演技が、村上春樹的主人公像に通じる」と西島秀俊にオファー。みさき役には「会って聡明(そうめい)さを感じた」という三浦透子を選んだ。
