急上昇男優3位の仲野太賀 主演や壁ドン、挑戦の1年
『ゆとりですがなにか』(2016年)、『今日から俺は!!』(18年~)などのドラマでインパクトの強い脇役を演じる一方、石井裕也、中川龍太郎ら気鋭の映画監督の作品に主演して地歩を固めてきた"若き名優"仲野太賀。20年は映画7本、ドラマ4本に出演する活躍を見せ、うち映画2本、ドラマ2本に主演。バイプレーヤーから"主演常連"のポジションに近づき、タレントパワーランキング男優部門の急上昇3位に輝いた。
「いやもう、とってもうれしいです。今までなかなか、こんなふうに取り上げてもらえることがなかったので、素直にうれしいですね。
この1年で、仕事の量自体はそこまで変わりはないんですけど、役がちょっとずつ大きくなってきて、ありがたさとともに、責任の重さを感じるようになりました。コロナで先行きが見えないなか、タイミング良く連続ドラマのお話をいただいて。『あのコの夢を見たんです。』と『この恋あたためますか』が同時期に放送されたのは大きかったんじゃないかなと思いますね。さらに『生きちゃった』(石井裕也監督)、『泣く子はいねぇが』(是枝裕和企画、佐藤快磨監督)と2本の主演映画が公開されて、尊敬する作家さんたちと作品を作れた喜びもあって。そういう意味では、大きな1年でした」
『あのコの夢を見たんです。』は、民放連ドラ初主演作。仲野は原作者でもある南海キャンディーズの山里亮太役を演じ、妄想シーンでは高校生から勇者まで演じ分けた。
「『この恋あたためますか』は、森七菜主演のラブストーリー。ヒロインとともにコンビニスイーツを開発する新谷誠役を好演した。
『あのコの夢を見たんです。』は、まさか山里さん本人の役を僕がやる未来が来るなんて思ってもみなかった(笑)。そして蓋を開けたら、連ドラの主演。これは挑戦だなと思ってやらせてもらいましたね。
『この恋あたためますか』は、中村倫也さんの恋敵役だと聞いて、まあ、勝ち目はないなと(笑)。今まで胸キュンドラマに縁がなかったので、これも挑戦でした。
第1話で経験したのが、『壁ドン』。脚本にそういうト書きはなかったんですけど、現場で監督に『やりませんか?』と言われて、『やりますか』と。ただ、マジな話をすると、流れ的には少し無理があって、実感を持てないままだったんです。それが、森さんのニコッという返しの笑顔一撃で、すべてが成立した。リアクション次第で、お芝居はどうにでもなるんだなって、すごく勉強になりましたね」
出会いが引き出しを作った
俳優・中野英雄の次男として生まれ、06年、13歳のときにデビュー。「映画俳優」を目指した。
「ゼロ年代の映画に影響を受けて、カッコイイ先輩方のようになりたいと思っていました。だけど、映画界から見向きもされない感じがあって、高校生のときには『俺には無理だな』と。そんなときに出合ったのが、岩松了さんの演劇です。一般公募のオーディションを受けて出演(11年の『国民傘』)したら、『演劇って、こんなに面白いんだ!』と衝撃を受けたんですよ。世の中には映画だけじゃなく、面白いものがたくさんあると気づいて、マインドが変わりました。
その後の転機として大きかったのが、『ゆとりですがなにか』。宮藤(官九郎)さんが書いてくれた山岸ひろむというキャラクターで、初めて世間に認知された感覚があって。『山岸、面白かったよ!』とか『山岸ムカつく!』とか(笑)、いろんな反応があって面白かったし、まさかあいつ(山岸)に俺の人生救われるとは思わなかったです(笑)。
深田晃司さんや石井裕也さん、松居大悟さんといった監督たちとの出会いも大きかったですね。くすぶっていた頃から起用してくれて、『面白いじゃん!』って言ってもらえて。そういう言葉が1番の支えでした。
コメディ演技を鍛えてもらったのは、福田(雄一)さん。福田組では、普通のドラマや映画では絶対にしないような表現を要求されるんですよ。引き出しの中身を根こそぎ出されて、その引き出しがギザギザに変えて返されるみたいな(笑)。いろんな監督に引き出しを開けてもらって、気づいたら演じられる役が広がっていた感じがします」
今年2月には、今泉力哉監督のもとでアイドルオタクを演じた『あの頃。』と、西川美和監督、役所広司主演の『すばらしき世界』が公開。名優・役所との共演について仲野は「俳優人生の最大の目標の1つでした。それが西川監督のもとでかなった、夢みたいな話。本当に宝物のような経験になりました」と振り返る。
そして4月からは連ドラ『コントが始まる』がスタート。同じ93年生まれのトップランナー、菅田将暉、神木隆之介、有村架純と肩を並べて共演している。菅田は高校の同級生で、今でも親友だ。
「将暉が『一緒にやろう』と言ってくれて、有村さんが決まり、神木君が決まったときは、ワクワクしました。みんな信頼できる俳優なので、お芝居していて楽しくて、このまま終わりたくない(笑)。
将暉がいなかったら、全然違う人生だった気がしますね。お芝居はもちろん、彼の活躍は近くにいても本当に刺激になりました。もちろん、若い頃は自分と比べて、悔しい思いをしたこともあります。まあ、それは将暉に限った話じゃないですけど。でも、そういう燃料も必要じゃないですか。それがなかったら、続けられなかったんじゃないかな。近い道ではなかった気がしますが、どんな経験も無駄じゃなかったと、少しずつ感じられるようになりました」
現在、28歳。30代に向け、どんな俳優になっていきたいのか。
「若さだけじゃ通用しなくなるので、新しい自分、大人の表現もちゃんと見つけて、30代も楽しんでもらえる役者になりたいです。
そして、北野武監督の作品に出てみたい。ヤクザ役でも何でもいいです。あと、いつか映画を作りたいですね。それは監督じゃなくてもいいんですけど40歳くらいにはやりたい。そのためにも、今は俳優としての説得力を強めていかないといけないと思っています」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2021年7月号の記事を再構成]
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