経済学者クルーグマン氏 五輪開催は合理的ではないポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター教授(上)

ニューヨーク市立大学大学院センター教授 ポール・クルーグマン氏 (c) Fred R. Conrad/The New York Times
ニューヨーク市立大学大学院センター教授 ポール・クルーグマン氏 (c) Fred R. Conrad/The New York Times

2008年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ポール・クルーグマン氏はニューヨーク・タイムズなどを舞台にしたジャーナリストとしての活動でも知られる。時事的なテーマでの発言も多い。新型コロナウイルスによるパンデミックが今なお続く中、世界の今と未来をどのように見ているのか。作家でコンサルタントの佐藤智恵氏がインタビューした。

佐藤 今年4月に発表されたIMFの世界経済見通しによれば、2020年の日本の経済成長率はマイナス4.8%です。これは先進国平均のマイナス4.7%よりも低く、米国のマイナス3.5%よりもはるかに低い数字です。日本は欧米よりも感染者数を抑えられてきたのに、なぜこれほど経済が落ち込んでしまったのでしょうか。

経済成長率を生産年齢人口で見る

クルーグマン 新型コロナウイルスの感染拡大に対する日本の対策は、一定の効果を上げてきたと思います。日本が欧米よりも感染者数を抑えることができたのは、検査・追跡・隔離政策、外出や経済活動を制限する措置などが比較的有効に働いたからです。

さらに日本には感染予防にプラスとなる文化もありました。米国ではマスクの着用の是非をめぐって文化的な対立が生じましたが、日本にはパンデミック前からマスクを日常的に着用する習慣がありました。アメリカ人よりもずっと理性的に行動できる文化があったのです。このことも感染の抑制につながったと思います。

国別の経済成長率を見ると、確かに日本経済はパンデミック下で必要以上に落ち込んでいるように見えます。ところがここで重要なのは、国の実質的な経済成長率を評価するには、全人口ではなく、生産年齢人口(15~64歳)を基本に見る必要があることです。米国の生産年齢人口の成長率はほぼゼロですが、日本はマイナスです(筆者注:2019/12-2020/12マイナス0.5%)。生産年齢人口1人当たりの実質GDPの成長率を算出してみると、日本はアメリカよりも高いのです。

日本は世界のどこよりも早く長期停滞を経験している国です。その主要な要因は人口の高齢化です。人口動態の変化が、需要の低迷、投資需要の低迷をもたらし、それが経済の停滞につながっているのです。ですから、全人口の国民総生産をもとに経済成長率を見ると、高齢者人口の割合が小さい米国よりも低く出るのは当然のことです。

佐藤 近著の『ゾンビとの論争 経済学、政治、よりよい未来のための戦い』では、ニュースメディアの欠点や米国政治への影響について考察しています。新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、日本のメディアは新型コロナニュース一色になり、このことが、必要以上に消費を低迷させてしまったのではないかと見るエコノミストもいます。これについてどう思いますか。

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