問題はソーシャルメディア

クルーグマン 繰り返しになりますが、2020年の日本の経済成長率はそれほど悪くありません。生産年齢人口を考慮して算出すると米国よりも良いのです。

また新型コロナウイルスに関する過剰報道がマイナス成長の一因になったとは思いません。総じて既存のクオリティーメディアは責任感をもって、できるかぎり正確な情報を伝えようとしてきたと思います。パンデミックは人々の命にかかわる恐ろしい事態です。報道しすぎるなどということはありません。

実際のところ、パンデミックの発生当初、米国の人々はこのウイルスの脅威をあまりにも軽く考えすぎていました。テキサス州やフロリダ州のようなところでは、当初、経済はそれほど落ち込んでいなかったのに、油断して経済活動の再開に早期に踏み切ったとたんに、再拡大に見舞われ、景気は一気に減速しました。このウイルスはとてつもなく恐ろしいものです。メディアの正しい報道によって、マスクをしたり、外出を控えたりするのは理にかなった行動です。

問題はフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアです。SNS(交流サイト)上には、信じられないような陰謀説や間違った医療情報が多数掲載されています。これらを本気で信じる人たちがいるのは大きな問題です。パンデミック前からすでにSNS上には医療に関する誤情報が氾濫していましたが、その傾向がさらに強まっています。

現在、SNS上には、「新型コロナウイルスはこんなに恐ろしい」よりもむしろ「ウイルスは全然大したことない」「マスクをするほうが危険だ」「この魔法の薬を飲めば、コロナが治る」といった情報のほうが多く掲載されています。こうしたソーシャルメディアの誤情報は、国の経済成長に影響を与えるというよりは、むしろ人々の安全と健康に深刻な被害をもたらしていると思います。

現在の感染状況での五輪開催は間違い

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 今月23日から東京オリンピックが開催されます。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県をはじめとする主要な会場では、すべて無観客で開催されることが決まりました。この決定についてどう思いますか。

クルーグマン 開催決定に至るまでの経緯については詳しく把握しているわけではありませんが、現在の感染状況で、東京オリンピックを開催するのは間違いだと私は思います。開催すれば、新型コロナウイルスの感染爆発が起きる可能性は確実に高まります。そうならないことを祈っていますが、人々の安全を脅かす可能性のあるイベントを開催するのは本末転倒です。

オリンピックが一旦始まってしまえば、人々はそれなりにテレビやインターネットで試合を観戦するでしょうが、かつてないほど注目度の低いイベントになると思います。これほど新型コロナウイルスが猛威をふるっている中、オリンピックどころではない、と思っている人がたくさんいるからです。

いま、この段階で中止や延期が難しいのは理解していますが、現況で、23日から開催するのはやはり間違いだと思います。

佐藤 当初、東京オリンピックは東日本大震災からの「復興」を理念として掲げ、開催による経済効果に強い期待が寄せられていました。コロナ禍での開催は景気浮揚につながると思いますか。

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国全体への波及は平時でも見込めない
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