何をどう変え、若手人材が活躍する会社に生まれ変わったのか。特殊鋼の卸は素材を自動車や機械などのメーカーに仲介する会社。「1トンいくらの商売をしていたが、価格決定権は鉄鋼メーカーや自動車など顧客側にあり、我々にはなかった」。バブル崩壊を契機に量を追うビジネスは限界を迎えた。一方、顧客側は「このタイプの金属加工製品を10ロット欲しい」などと多品種少量の加工製品を求めていた。

量から質へのビジネスの転換を迫られたが、何千社ともいわれる加工業者と顧客のメーカーをつなぐのは容易ではない。他社は「そんなの面倒くさいだけ」と乗り気ではなかった。しかし、井上社長は「情報を武器に変えればいい。データを活用したシステムをつくろう」と社内を鼓舞した。

今風に言えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)化に踏み切ったのだ。加工製品データベースの検索システムを構築し、99年に稼働を始めた。顧客企業が求める加工製品名を検索すると、瞬時に加工業者の社名など各種データを表示する仕組みだ。今や7万7000件のビッグデータを蓄積している。

データはオープンワーク提供

新規開拓案件の粗利の10%を社員に支給

どこにどのような加工業者が存在するかを知らない若手の営業でも顧客の要望にすぐに応えられる。情報の交換・共有がスムーズになれば、顧客の課題解決のための提案も可能になる。特殊鋼の加工工程は長く、各工程で様々な加工業者が介在する。例えば、ある化学メーカーが製造ラインのメンテナンスを計画している場合、加工業者のA社とB社、C社をうまく活用すれば、低コストで高品質のメンテナンスにつながるといった提案もできる。情報を掛け合わせ、付加価値の高い製品サービスを提供するコンサルティング型営業の素地が20年前に仕上がっていた。

さらに社員に対して「新規開拓奨励金」という画期的な士気向上策を講じた。井上社長は「新たな取引先を開拓していかないと成長はないが、新規は訪問1回あたりの粗利が低く、積極的に開拓しようとしない。そこで新規開拓案件の粗利の10%を社員個人に支給する報奨金制度をつくった」と打ち明ける。2001年から導入したが、これは給与や賞与とは別の報酬だ。20年に新規開拓の粗利トップだった社員は272万円、2位は147万円が支給された。2位は入社2年目の女性社員だという。年間の新規取引件数は500件に及ぶ。

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