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健康・医療
from 日経Gooday

2021/7/19

from 日経Gooday

私の場合、執筆などで朝方まで作業をしていると、逆に手足が冷えて指先がこわばってしまうこともある。

――内山教授「早朝は、1日の活動時間に備えて深部体温を上げようとする時。体外に熱を逃すまいと皮膚の血管が閉じるため、皮膚の表面温度が下がって手足は冷たくなります。風邪などの感染症にかかった時の仕組みも同様です。体は病原菌を殺すために深部体温を上げようとします。発熱物質を作ると同時に皮膚の血管を閉じて熱の放出を抑え、体を守ろうとするのです」

目の周りを温めれば入眠までの時間が短縮、研究で明らかに

手足がラジエーターの役割を果たしていることは分かったが、内山教授と花王の最新の共同研究では、「目」が焦点だ。目の周りを20分間約40度で温めた後、眠りにつくまでの時間と睡眠の深さを脳波計で測定している。

その結果、目を温めることで眠りにつくまでの時間が約2 分の1 に短縮(12.9 分から6.8 分へ)。眠り始めから深い睡眠に入ることが分かったという。

――内山教授「実はこれも、手足のラジエーターが関係しています。寝る30分くらい前に目を温めると熱の放出が促進され、手足が温かくなって眠りやすくなるのです」

どうして「目」が眠りと関係するのだろうか?

――内山教授「そのメカニズムはまだ解明されていません。私たちの実験で目を温めたところ、胴体の体温は上がらないのに手と足先の皮膚温度は上がることが分かりました。目がほんのり温められると、眠気をもよおしていく時と同じプロセスのスイッチが入るようです。目は脳に最も近い器官。いわば脳の一部のようなものです。『見る』だけでなくさまざまな情報を感知する機能を持っているのだと思います」

目を温めると、手足が温かくなって眠りやすくなるという

気温の高い時期は目も温かくなっているはずだ。にもかかわらず、眠りにくいのはなぜだろうか?

――内山教授「暑くて湿気が多いと、手足の皮膚から周囲に熱が逃げにくいからです。そのため、深部体温が下がらずに眠りにくくなってしまいます。こういう時は熱を逃がしやすくする環境作りが大切になります」

では、エアコンや扇風機も上手に活用した方が良いということだろうか?

――内山教授「湿気が多くて不快な暑さでしたら、エアコンで室温をコントロールして手足から熱を逃がしやすくすることも、一つの方法です。不経済だと思われるかもしれませんが、快適性や健康にはそれなりの工夫が必要なのです」

クーラーが苦手な人はどうすればいい?

かくいう私はかなりの冷え性で、クーラーが苦手だ。暑い季節でもクーラーが効いている部屋や天気が悪く肌寒い日には、靴下をはかないと寒くて眠れない。「靴下をはいて眠ると、安眠できないよ」とアドバイスをしてくる人もいるが、靴下をはかないとすぐに足先が冷たくなって眠れなくなるのだから仕方ない。でも、本当に靴下をはくことは睡眠に良くないのだろうか?

――内山教授「結城さんのように冷え性の人が靴下をはいて眠るのは、正解です。

冷え性の人の体は、寒さに敏感に反応しがち。体は寒さを警戒して熱を逃がすまいと血管を閉じてしまい、手足が冷たくなりがちなのです。そのため手足から熱がうまく逃げず、深部体温も下がりにくくなって寝つきが悪い。反対に、靴下や手袋の着用で温かく感じれば、安心して血管が開き手足が温かくなって熱を逃がして眠れるのです」

冷え性ではすぐに体が冷たくなるので、寒い冬や夏のクーラー環境では眠りにくいものと諦めかけていたが、熱の放出メカニズムを知ると、自分で工夫できそうだ。

それにしても、ちまたには体を冷やして熱帯夜を乗り切るための商品があふれている。首や頭、おでこを冷やすものなど、どれを選べば良いのだろう。

――内山教授「医療の現場では解熱剤を使いにくい患者さんの場合、わきの下を冷やします。太い血管が走っているわきの下や足の付け根を冷やせば、効率的に体の中心部を冷やせるのです。私も暑い日にはスポーツ用の氷のうで軽くわきの下を冷やしていますが、眠りやすいですよ」

では、わきの下を冷やすことがお勧めだということだろうか?

――内山教授「そうとは限りません。気を付けていただきたいのは、誰にでも通じる方法はないということです。暑がりや寒がりの人もいますし、体調にも左右される。私にとって良くても、他の人にとってはもっと良い方法があるかもしれない。生きていくために適した環境を選ぶ人間の調節機能で一番重要なのは、『心地良さ』を感じること。睡眠の仕組みを知って、あとは『自分にとって何が心地良いか』を見極めることが大切です」

手足が温かくなり熱を逃がせば深部体温は下がって眠くなりやすいし、活動の準備をする朝方は熱を逃がさないように手足は冷たくなって深部体温は上がる。

暑さで体内の熱を下げにくいなら、手足から熱を逃がしやすくするために「室温を下げる」「目を温める」「体を冷やすためのシートや氷枕などを活用する」など、やり方はいろいろだ。「睡眠は体の内部の熱を下げることから始まる」と心得て、1年中変わらず快眠生活を楽しみたいものだ。

【夏の睡眠をスムーズにする快眠ルール】

ルール1 睡眠時には、深部体温をスムーズに下げることが大切
ルール2 目を温めれば深部体温を下げやすくなるが、夏は室温コントロールにも配慮すべし
ルール3 自分にとって「心地良い」と感じる快眠グッズを見つけるべし

(イラスト 斎藤ひろこ[ヒロヒロスタジオ])

内山真さん
日本大学医学部精神医学系客員教授・東京足立病院院長。1954年生まれ。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学精神神経科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理部部長などを経て、2006年、日本大学医学部精神医学系主任教授に。2020年から現職。厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」検討委員会座長、日本睡眠学会理事長、日本臨床神経生理学会理事、日本女性心身医学会理事などを務めた。『睡眠のはなし』(中公新書)、『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)など著書多数。NHK「きょうの健康」をはじめ、メディアへの出演も多い。
結城未来
エッセイスト・フリーアナウンサー。テレビ番組の司会やリポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーター、健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動を実施している。農林水産省水産政策審議会特別委員でもある。
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