竜とそばかすの姫・細田守 三たびネット社会描く理由細田守監督インタビュー(上)

日経エンタテインメント!

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細田守監督の3年ぶりの最新作『竜とそばかすの姫』は、新たなる挑戦かつ、ワールドワイドな地平にスケールアップしたエンタテインメント大作だ。壮大な仮想世界のビジュアルと美しい自然描写、高校生の青春群像、さらにネットを介しての自己肯定や芸術の持つ力、傷ついた心への寄り添いといった普遍的なテーマや社会的意識が込められた重層的な作品となっている。これまでも、常に変化し続ける時代を切り取って描写してきた細田監督。その渾身の最新作『竜とそばかすの姫』に込めた思いを、7つのポイントに分けて聞いた。

『竜とそばかすの姫』 (C) 2021 スタジオ地図

ポイント1:3度目のインターネット

1967年生まれ、富山県出身。1991年東映動画(後の東映アニメーション)に入社し『劇場版デジモンアドベンチャー』(99年)などを手掛ける。退社後『時をかける少女』(06年)、『サマーウォーズ』(09年)を発表。11年にスタジオ地図を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12年)、『バケモノの子』(15年)、『未来のミライ』(18年)を制作。国内外から高く評価される日本を代表するアニメーション映画監督に(写真:中川真理子)

『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』や『サマーウォーズ』でインターネット世界を描き、若者の心をつかんできた細田守監督。本作最大の注目点は、今またインターネットを真正面から取り上げることだ。

「僕は、インターネットの世界を舞台に、継続的に映画を作っている世界でも数少ない監督の1人だと思います。インターネットの歴史はまだ25年ほどですが、2000年の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』、09年『サマーウォーズ』、そして21年『竜とそばかすの姫』――つまり、ほぼ10年おきに作っているんです。

12年前の『サマーウォーズ』と比べても、現代はインターネットがより生活に欠かせないものになり、特にSNSは、若い人にとって“もう1つの現実”です。さらにこのコロナ禍で一気にリモート化が加速。ネットの役割が変化したことで、どんな新しい物語が生まれるか。10年後にこの作品を見ると、もっと変化や違いが客観的に見えるかもしれません。

なおかつ、インターネットを肯定的に描いています。ネットは、誹謗中傷や、匿名で遠慮のない言葉の刃が飛び交い批判されることも多いですよね? 現実世界でははっきり見えない人間関係のヒエラルキーや差別感情が、ネットでは可視化され、見せつけられる。さらに、ネットやSNSで人格が変わったり、現実と振る舞いが違う人もいる。

現実のすずは、母親を亡くした過去から現実に心を閉ざし、クラスの隅でうつむいているような、周囲から少し浮いた存在だ (C) 2021 スタジオ地図
Asは“もう1人の自分”と呼ばれ、スキャンした生体情報から自動生成されたもの。<U>における自分の分身で、その人の隠された能力を引き出すことができる。すずもベルの姿でなら歌うことができて、注目されていく (C) 2021 スタジオ地図

でも、どちらが本当でどちらが嘘かというより、1人の人がやっている以上どちらも本当。例えば本作の主人公・内藤鈴(すず)は、クラスの隅でうつむいているそばかす少女ですが、<U>では“ベル”という人気の歌姫。真反対の存在であっても、どちらもその少女の一面です。人間は多面体でできていて、本当はみんなそうした異なる側面を持っているんです。

そんな具合に、インターネットは本人が思ってもいない別の側面も明らかにする。もう1人の自分と出会って変化が起き、現実の自分も強くなっていく――そんな効果もあると思うと、若い人がSNSやインターネットに求めるものの重要さが分かってきます。ただ批判するだけではなく、肯定的に“寄り添う”目線が必要ではないか。特にこのコロナ禍の、制限が多く抑圧された世の中には。それができたら、多少は気が晴れる夏になるんじゃないかと思うんです」

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ポイント2:『美女と野獣』への回答
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