部下に文句を言われ、自分が長時間労働する羽目に

面談室に入ってきたTさんは、顔色もあまり良くなく表情も暗い感じでした。私が「最近体調不良で遅刻が増えているようですが、調子はどうですか?」と尋ねると、「実は夜の寝つきが悪くなってしまって。ここ1~2カ月は、毎日2~3時間しか眠れていません」と話します。

事情を詳しく聞いてみると、当初は張り切っていたものの、部下2人のうち1人が仕事が遅くミスをしやすかったため、自分がカバーしながらもう1人の部下に仕事を多く頼んでいたそうです。すると仕事を多く頼んでいた部下が次第に「なぜ自分だけ仕事の量が多いのか? 不公平じゃないか」と不満を口にし始め、Tさんに文句を言うようになりました。

部下に強い口調で文句を言われてショックを受けたTさんは、平等に仕事を振るようにしたそうです。すると仕事の遅いほうに合わせて仕事を振るために、当然ながらプロジェクトの進捗(ちょく)が遅れ始めました。

Tさんは責任を感じて終電まで目いっぱい残業し、遅れた仕事をカバーしようとしたのですが、あまりにも忙しくて、仕事の遅い部下のミスに気づくのが遅れてしまいました。

その結果プロジェクトの遅れが致命的になってしまい、上司やクライアントからも「どうなっているんだ!」と厳しく責められてしまったのです。

夜も不安で眠れなくなり、朝起きるとひどい頭痛がするようになってきました。頭痛薬を飲んでなんとか会社には来て、自分で無理をして膨大な仕事をこなすという毎日……。

(イラスト:福田玲子、『「会社がしんどい」をなくす本』より)

Tさんは私に「もうプロジェクトリーダーを降りたいです。前のように部下を持たないで、自分の仕事に思い切り集中できる身分に戻りたい」と訴えました。

このようなケースは、中間管理職の経験が浅い人によく見られます。部下からの要望と上司やクライアントからの要望との間でサンドイッチ状態になり、身動きが取れなくなって心身の調子を崩してしまうのです。

特にTさんのように黙々と仕事をこなす職人タイプや、性格が優しくて人に強く言うのが苦手で他人から嫌われることを恐れる人が部下を持つと、このようなケースに陥ってしまうようです。

「逆パワハラ」に苦しめられる新米管理職

部下のほうが露骨に文句を言ったり反抗的な態度を取ったりする「逆パワハラ」の状況になって、メンタルを崩す若い管理職に私は何人も出会ってきました。

彼ら彼女らは本来プレーヤーとして仕事をすることは大好きなのですが、他人に毅然(きぜん)とした態度で注意をしたり指示命令を出したりすることは苦手なのです。性格も温厚でNOと言えないタイプの人は、部下に食われてしまって主導権を取られてしまうことがあります。

プレーヤー気質の人は、いくら仕事ができるからといって部下をいきなり持たすのではなく、徐々にリーダーシップが身に付けられるように、まずは「管理職の見習い」的な立ち位置に置くことがお勧めです。

部下の管理の仕方、注意の仕方、部下からのクレームへの応じ方などを丁寧に指導してあげる「管理職になるためのコーチ」が必要なのです。コーチングなどの外部研修に積極的に行かせるのもよいでしょう。

管理職としてのスキルを身に付けてから中間管理職として独立させないと、Tさんのような「マネジャー職に適応できない」というケースが起きてしまいます。

Tさんは不眠症状や抑うつ状態がかなりひどく頭痛も頻繁に起きているようでしたので、すぐに心療内科を受診して治療を受けてもらうことにしました。同時に会社の人事部にフィードバックし、「Tさんのマネジャー職を一時的に免除し、仕事量や責任も大幅に軽減してあげることはできないか」と提案しました。

プレーヤーとしての能力は会社で高く評価されていたために、人事もすぐに動いてくれて、Tさんは望み通りリーダー職を解かれプロジェクトも変更となり、マイペースで仕事に取り組めることになりました。

心療内科での治療の効果も出て体調は次第に回復し、数カ月後には表情も元通りになり、穏やかな笑顔が見られるようになりました。

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