飛びながら眠る鳥、土に潜る魚 ありえない動物の睡眠

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/7/21
ナショナルジオグラフィック日本版

鼻先に雪をのせて眠る若いホッキョクグマ。人間と同じく、大半の動物は睡眠を必要としているが、その方法はそれぞれに独特だ(PHOTOGRAPH BY NORBERT ROSING, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

人間にとって、睡眠とは必要不可欠なものであり、謎であり、ぜいたくでもある。人間になぜ睡眠が必要なのか、その理由はまだ解明されていないが、これが必要であることは確かだ。そして睡眠時間が1時間増えたり減ったりすることで、人の1日は快適にも、つらいものにもなる。

大半の動物も睡眠をとるが、その方法は動物界そのものと同じくらい多様だと、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神科医ジェローム・シーゲル氏は言う。そうしたバリエーションには、睡眠の長さ、深さ、脳内での作用の仕方など、さまざまな要素がかかわっている。

一日中うたた寝をしているようなイヌから、脳の半分だけを使って眠るイルカまで、動物たちの多様な眠り方を紹介しよう。

1日のサイクルもそれぞれ

人間の睡眠は、ほかの大型類人猿たちと同じ単相性だ。これは、24時間の間に長時間の睡眠を1回とることを意味する。また、ボノボ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンはどれも、外敵や虫を避けて木の上に寝床を作る。密林の中のベッドというわけだ。ゴリラの睡眠時間は12時間だが、オランウータンのそれは8時間程度と、人間とほぼ変わらない。

対して一部の霊長類では、大半の哺乳類と同じように多相性睡眠であり、24時間サイクルの中で睡眠と活動の時間が交互に繰り返される。学術誌「Physiology & Behavior」に発表された初期の研究では、イヌの睡眠・覚醒サイクルは約83分単位で、24時間における睡眠時間は10時間半強になることがわかった。

長くぜいたくな睡眠をとる大型類人猿と比べて、ほかのサルたちの睡眠が短く断続的なのは、彼らの寝床と関係がある。サルは硬い枝の上でバランスをとらなければならず、危険の兆候やほかのサルたちによって簡単に起こされてしまう。これは便利なことである一方、長時間の睡眠には適していない。

類人猿の体が大型化するにともない、かつて寝床にしていた枝では体重を支えられなくなった。そこで彼らは、体をしっかりと支えてくれる寝床を作り始めた。危険な捕食者などの邪魔者から離れて身を横たえることで、彼らはより長く、より安全に、より深く眠れる環境を整えた。

2015年に学術誌「American Journal of Physical Anthropology」に発表されたある研究では、実際のところ、オランウータンは近い親戚であるヒヒよりもよく眠っていることが明らかになった。また、この研究によると、オランウータンの認知能力は、長く深い睡眠の翌日には向上していると思われるという。

脳の半分で眠る

イルカは、脳の半分だけ深い眠りにつくことができる。そうすることによって、片目を開けて捕食者に目を光らせながら眠ることが可能になる。

「イルカは基本的に、生涯にわたって1日24時間、警戒を続けます」とシーゲル氏は言う。

イルカがほかのクジラの仲間、マナティー、アシカの仲間、一部の鳥と共有しているこの睡眠パターンは、半球睡眠と呼ばれる。この睡眠でとるのは、ゆっくりとした脳波が出る深い徐波(じょは)睡眠だけで、いわゆるレム睡眠は生じない。

レム睡眠とは、脳が活発に活動し、呼吸は比較的速く、大半の筋肉が一時的に弛緩(しかん)している睡眠状態を指す。眠っていても眼球が急速に動く特徴があり、「Rapid Eye Movement(急速眼球運動)」の頭文字をとってREM(レム)睡眠と名付けられた。

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寝不足の解消が不要な動物も
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