神木隆之介・木村昴 「自分の終わり」考える機会に
映画『100日間生きたワニ』
マンガ家・きくちゆうきがツイッターに2019年12月から翌年3月までの100日にわたって投稿した4コママンガ『100日後に死ぬワニ』。そこで描かれたワニの100日間と、そこから100日後を描いたアニメーション映画『100日間生きたワニ』が公開中だ。ワニ役の神木隆之介、親友のモグラ役の木村昴に聞いた。
神木 映画化すると聞き、まさかあのワニたちが動くと思ってなかったので驚きました(笑)。原作を見ていたので、お話をいただいたときは「ぜひやりたいです」とお返事しました。仲の良い中村倫也君(ネズミ役)も一緒のお仕事だったので楽しみでしたね。
木村 僕も「映画になるんだ!」っていうところに驚きました(笑)。実は最初マンガが話題になっていたときは、読みもせず「またまた~大げさに盛り上がっちゃって」って、ちょっと斜めに見ていたんですよ。でも、あまりにも話題なので興味本位で見たら、人によって解釈が変わるような描き方があったりして、すぐ引き込まれましたね。特に最終話は、「ワニ、本当に死んじゃったんだよな…?」って、いろいろ思いを馳せたことを覚えてます。
2人がワニとモグラの声を演じるにあたり意識したのはどんなことだったのか。
神木 上田(慎一郎)監督から、「ワニは正直で素直なキャラクターにしてほしい」って言われたんです。幼なじみのネズミとモグラとは近しい間柄だからこそ、つっけんどんな態度でも成立する。ワニが「こういうことをしてみたい!」と言っても、ちゃんと2人が巻き込まれてくれる信頼関係もある。場面ごとに、「このワニだったら、そうだよね」っていう説得力のある表現を心掛けました。後半はワニがいなくなったところから始まるんですけど、そこからはちょっと「(ワニがいなくて)何か足りないな」って観客の方に思っていただけるような雰囲気が出せればいいなと思って演じました。
木村 モグラは、ワニに対してつっかかっていったり邪険にしたりするんだけど、やっぱりそれはワニとの付き合いが長いからこそ。ワニが本気で受け取らないってことが分かってる。そこのキャッチボールがすごく良いんですよね。
神木 どのキャラも愛おしいんです。特にネズミが超かわいくて。
木村 めっちゃかわいい! ぶっきらぼうだけど優しいんだよなあ。
神木 それを中村倫也が演じてるのが、また合ってるなあって思いましたし。(マンガで)止まっててもかわいいんだけど、動くとまたかわいい。癖になるかわいさです。
映画独自のオリジナルも追加
当初、原作で描かれた100日間に後日譚(たん)を少し付けた構成で進んでいたが、コロナ禍で大幅に変更。ワニがみんなの前から姿を消した100日後からの物語が後半として追加された。
神木 原作はたくさんの人に読んでもらえているし、映画オリジナルのストーリーが加わったのは良い変化だなと思いますね。僕はワニ本人なので(笑)、精いっぱい生きたから、「僕がいなくなった後のことは、みんなよろしく」みたいな。「命は有限」っていうのは、みんなに平等にあるもの。この映画によって、そんなことを自然と意識してもらえたらいいなって思います。意識することで、普段見ている景色もちょっと変わってくると思うし。
ワニに残された人たちは大変だなと思いました。時間がゆっくりと喪失感を溶かしていくんでしょうけど、なかなかそうもいかなかったり…。時間が止まるってこういうことなんだなって。その感覚を、モグラや残された人たちがどう表現してみなさんの胸に届けることができるか。僕(ワニ)はもういなくなってるので、ある種無責任なところもありますが(笑)。
木村 (笑)。ワニは、100日という期限はもちろん自覚していなかった。でも、そのなかで彼なりに、後悔したり後悔しなかったりして生きていて。なんてことのない日もあれば、思いを寄せる先輩と話した特別な日もある。でも、大きな事件が起きてないからこそ、周りには急に彼を失ったショックがある。彼が全うした生をそれぞれがどう受け入れていくかっていう話が後半です。モグラのミッションは、ワニの死を忘れるんじゃなくて、彼が生きていた頃のように日常を進んでいくところにあるんじゃないかなって思いました。絶望から一歩踏み出し、「ちょっと前を向いてみてもいいのかな」と思うように変わったりして。。やっぱり生きてれば失うものってたくさんあるじゃないですか。大事に飲んでた牛乳を何かの拍子に…。
神木 …え、牛乳?(笑)。
木村 何かの拍子に一気に飲んじゃって、「あ、もうこれだけしか残ってない!」とか。フリスクを最後に全部出しちゃったとか(笑)。そういうのも小さな意味では失っていくことだと思うので。
神木 そうだよね(笑)。
木村 あるのが当たり前で意識してなかったけど、その当たり前こそが大事なんだなってことを、この作品で感じてもらえればなって。
「死ぬ前に絶対に仕事を辞めたい」
今作に携わったことで、「自分にも終わりがやってくる」ということとどう向き合ったのだろうか。
神木 常に意識しているわけじゃないですけど、死はやってくるものですからね。順番的には親も自分より先に死んでしまうし。
木村 えー、母ちゃん死ぬの、無理~!
神木 順番的にはね(笑)。僕は小さいときからこの仕事をしているので、「親の死に目には会えない」ってずっと言われていて、親からも、「自分が危篤になっても、仕事があったら来ないで」って。
木村 そうなんだ?
神木 そう。逆に、僕が親に会いに行くっていうことは、僕に仕事が入ってなかったってことだからちょっと落ち込むって言われているぐらいで(笑)。だから、いつかそういう日が来る覚悟はしています。常に考えてるわけでもないですが、この作品に関わらせてもらったことで、"死"ということを生活の中で少しでも意識したというか、それがあるかないかでは、生き方が違ってくると思うんですよね。子どもたちにも絵本感覚で映画を見てもらって、自然とそういうことが伝わるといいなって思います。親子で「ワニがいなくなったことについてどう思った?」って話し合ったり。「悲しかった」とか「どこ行っちゃったの?」とか。「生きてるんじゃない?」って思ってもいいと思うし。作品で伝えてることってすごく大事なことだと思うので、そういう感じで楽しんでもらえてもうれしいなって思ったりしました。
木村 僕は死ぬ前に絶対に今の仕事を辞めたいと思ってるんです。現役で亡くなってしまうのは、残された人の悲しみが大きすぎる。そういう先輩方をたくさん見てきたので。だから、自分は60歳で惜しまれつつリタイアして、その時に声優としてやらせてもらってるキャラクターがあれば全部後輩に譲って、離島に移り住んで焼鳥店をやろうと思ってます。余生は串を回して生きていきたい。「あいつ最近どうしてるんだろ?」くらいがいいんですよね。
1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。2歳でCMデビューし、主演映画『妖怪大戦争』(2005年)でアカデミー賞新人賞を受賞。以降、ドラマや映画のほか、『サマーウォーズ』(09年)、『君の名は。』(16年)などアニメ映画への出演も多数。
木村昴
1990年6月29日生まれ、ドイツ出身。2005年に『ドラえもん』のジャイアン(剛田武)役で声優デビュー。主な出演作に『ハイキュー!!』『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』など。
花見の場所に来ないワニを心配したネズミはバイクで迎えに行く途中、満開の桜を撮影した写真を仲間たちに送るが、それを受け取ったワニのスマホは、画面が割れた状態で道に転がっていた。その100日前、ワニが送っていたのは、平凡でありふれた日常だった。(東宝配給)
(ライター 小松香里)
[日経エンタテインメント! 2021年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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