辛口ドイツワインにアジアの料理を 相性抜群の4本
エンジョイ・ワイン(40)
ドイツワインと聞くと、中甘口の白ワインを思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、それは昔の話。今は、料理と合わせやすい辛口ワインが主流になっている。赤ワインの生産量も増えており、白・赤ともに味の評判も上々だ。おすすめの辛口ドイツワインと、それに合う料理を紹介しよう。
6月中旬、えりすぐりのドイツワインをPRする試飲イベントが東京都内で開かれた。主催したのは、ドイツワインの輸出促進を目的とした非営利組織「ワインズ・オブ・ジャーマニー」の日本オフィス。輸入業者が推薦した180本のドイツワインの中からプロのテイスターが厳選した30本を試飲しながら、醤油(しょうゆ)や甘酢、スパイスで味付けするなどしたアジアの料理を合わせるという趣向だった。
アジア料理とのペアリングを選んだ理由を、ワインズ・オブ・ジャーマニーの担当者は、「酸味、甘味、うま味、スパイシーさを兼ね備えたアジア料理と相性のよいワインは、涼やかで優雅なアロマを持ち、やわらかい酸とフルーティーさのバランスが取れた白ワインや、細やかなタンニンを持つ赤ワイン。ほとんどのドイツワインが、この条件を兼ね備えているから」と説明する。
では、実際に試飲した中から、印象に残った辛口のドイツワインをいくつか紹介しよう。
まずは、スパークリングワインの「ベルンハルト・コッホ リースリング・ゼクト・ブリュット2016」(2860円)。ビールのイメージの強いドイツだが、実は、世界最大のスパークリングワインの消費国でもある。様々なタイプのスパークリングワインがドイツ国内で生産されており、日本でも輸入された高品質のスパークリングワインが手に入る。
質のよいスパークリングワインができる理由の1つは気候だ。飲んだ時にスカッとした気分にさせてくれる酸味の存在が、おいしいスパークリングワインの条件の1つだが、そうした酸味は冷涼な気候で育つブドウから生まれやすい。ドイツの主要ワイン産地は、ワイン用ブドウ栽培の北限とされる北緯50度付近に位置している。フランスのシャンパーニュ地方とほぼ同じ緯度にあたる。
ドイツの主要なブドウ品種、リースリングから造られたこのベルンハルト・コッホのスパークリングワインは、フレッシュで余韻の長い酸味が特徴。リースリングが醸し出すかんきつ系や桃の香り、泡が生むクリーミーな口当たり、瓶内二次発酵由来の厚みのあるボディーと、酸味とのバランスが秀逸だ。
おすすめのペアリングは、唐揚げや油淋鶏(ユーリンチー)といった揚げ物や炒め物料理。泡や酸味が余計な油分を洗い流し、油のこってり感をやわらげてくれる。
スパイシーや醤油系料理に合うのは
タイカレーなど、ちょっと甘さを感じる東南アジアのスパイシーな料理には、料理のコクを一段と引き出してくれる「上質な酸味と甘味を兼ね備えたワイン」(ワインズ・オブ・ジャーマニー)がいい。スパークリングワインもいいが、ここでは「ベッカー リースリング&ゲヴュルツトラミナー2019」(2750円)を紹介したい。
リースリングとゲヴュルツトラミナーをブレンドしたこのワインは、フレッシュな果実味と酸味のバランスに加え、しっかりとしたボディーと、わずかに感じる甘味が印象的だ。ゲヴュルツトラミナーはライチやスパイスの香りが特徴の白ブドウ品種で元来、東南アジア系の料理に合うと言われている。リースリングとブレンドすることで、切れ味のある酸味が加わり、一段高いレベルに仕上がっている。
アジアには醤油系の料理が多い。すき焼きや豚の角煮もそうだし、東南アジアには魚醤(しょう)を使った料理がたくさんある。しょうゆ系の料理には、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワールのドイツ語名)から造った赤ワインがおすすめだ。
「アレンドルフ クエルクス2016」(6380円)は、プラムの香りや、樽(たる)熟成由来のバニラやチョコレートの香りが濃厚な、フルボディーな一本。力強さがあり、醤油系の中でも、すき焼きなど甘味の強い料理と合わせたい。
蒸しギョーザや小籠包(ショーロンポー)、棒棒鶏(バンバンジー)など、やさしい味わいの蒸し料理には、素材の味わいをじゃましないよう、「突出した香りがなく、味わいもニュートラル(中立的)でミネラル中心のワインがよい」(ワインズ・オブ・ジャーマニー)という。
若手醸造家の増加や温暖化も背景
グラウブルグンダー(ピノ・グリのドイツ語名)から造られた「フランツ・ケラー グラウブルグンダー オーバーベルゲナー・バスガイゲ・エアステ・ラーゲ2017」(3190円)は、小気味よい酸味とミネラル感が持ち味で、蒸し料理にはぴったり。厚みのあるボディーも食中酒向きだ。グラウブルグンダーは、ドイツではリースリングに次ぐ高級白ブドウ品種として人気が出ており、質の高いワインが次々と生まれている。
ドイツではかつて、辛口の白ワインに甘いブドウジュースを添加し、中甘口に仕上げた低価格のワインが盛んに生産・輸出され、ドイツワインの代名詞ともなっていた。甘くするのは、未熟なブドウの酸っぱさや苦さを隠す狙いもあった。中甘口ワインは、ピーク時には輸出全体の約6割を占めていたが、1980年代ごろからの世界的な辛口ワイン人気の高まりに伴い、生産量が激減。中甘口ワインの生産に重宝されていた白ブドウ品種ミュラー・トゥルガウの作付け量は現在、80年代の半分以下に落ち込んでいる。
代わって注目を浴びたのが、リースリングやグラウブルグンダー、ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブランのドイツ語名)から造る辛口白ワインや、シュペートブルグンダー、ドイツ固有の品種ドルンフェルダーから造る辛口赤ワイン。赤ワイン用黒ブドウ品種の作付け割合は、80年には全体の約1割にすぎなかったが、現在は4割前後に増えている。
ドイツワインの質向上の背景には、栽培・醸造技術の向上や、耕作放棄地を活用してワイン造りに乗り出す若手醸造家の増加がある。同時に、地球温暖化で、ブドウがよく熟すようになった影響も見逃せない。
とはいえ、ドイツワインの関係者によると、温暖化の影響は口に出さないようにしているという。温暖化による異常気象で、命を失ったり、生活が脅かされたりしている人たちがいる中で、温暖化の恩恵を喜ぶのは不謹慎だからということらしい。いかにも環境大国ドイツらしいエピソードだ。
ワイン造りは自然環境に大きく左右されるだけに、自然環境と常に真摯に向き合うドイツの国民性が、ワインの目覚ましい質の向上につながっているのかもしれない。
ワインズ・オブ・ジャーマニーによるおすすめドイツワイン30選は同組織の公式サイト(https://www.winesofgermany.jp/)で見ることができる。
(ライター 猪瀬聖)
※商品の価格は希望小売価格(税込み)、画像はワインズ・オブ・ジャーマニー提供
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