極限の高地に集う人 ペルー、ゴールドラッシュの裏側

2021/7/4
ナショナルジオグラフィック日本版

アンデス山脈にある「眠れる美女」と呼ばれる氷河で、解けた水を近くにある金鉱の町ラ・リンコナダへ送るためのホースを整備する人たち。金の抽出の際に放出される水銀の蒸気により、氷河が汚染されるため、住民が使う水にも水銀が混ざる(PHOTOGRAPH BY CEDRIC GERBEHAYE)

ペルーのアンデス山脈では、危険な労働環境と有毒な化学物質に身をさらしながら、必死で黄金を探す人たちがいる。ナショナル ジオグラフィック7月号では、標高5000メートルという極限の高地で働く人々をリポートしている。

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アンデス山脈にあるラ・リンコナダは世界で最も高い場所にある町で、標高は5100メートルだ。

こんな場所に人々が暮らしているのは、高騰を続ける希少な資源、金が採れるからだ。過去20年間で金の価格は5倍以上に跳ね上がり、それに伴ってアナネア山に張りつくようにある町は、無秩序に拡大していった。いくつもある金鉱の入り口付近には、トタン板で作られた小屋がひしめき、湖はごみで埋め尽くされている。ここには3万~5万人が暮らすが、ごみの収集も下水道もないため、悪臭が鼻を突く。

坑道での事故や、けんかで命を落とす者も少なくない。金を売った稼ぎを奪われ、殺されて坑内に置き去られる鉱山労働者もいる。女性や少女が殺されることもある。人身売買業者にだまされて、ペルーやボリビアの都市から連れてこられた女性たちが、身分証明書を取り上げられ、ラ・リンコナダの薄汚い酒場や売春宿で働かされているのもよく目にする。

アナネア山では複数の小さな会社が鉱区をもっていて、そのうちの1社は450人ほどの協同組合のメンバーに鉱区を割り当て、運営を委託している。こうした委託運営されている鉱区は、労働条件や安全、環境の面で政府が設けた基準を満たしていないため、「非公式」とされている。しかし、高い基準の順守を目指す政府のプログラムに登録することを条件に、採掘が許されているのだ。

こうしてラ・リンコナダで労働者の健康がむしばまれ、アンデスの土地が汚染されているのをよそに、米国やスイスをはじめとする国々のバイヤーや精錬業者は、ラ・リンコナダの金を買い求め、加工し、金塊や宝飾品に変えている。そうなってしまえば、ペルーの無法状態の鉱山で採れた金だという印は何も残らない。

ペルーの人類学者ビクトル・ウーゴ・パチャスは、自国をはじめとする南米の国々における無秩序な金の採掘について調査している。「アンデスでは昔から、ラ・リンコナダのような小規模な鉱山での採掘が副業として行われていました。農業や牧畜で暮らしを立てている人々が収入を少しでも増やそうと、金鉱で働くこともよくあったのです」とパチャスが説明してくれた。こうした慣行はラ・リンコナダがあるプーノ県で少なくとも19世紀初頭から行われていたという。

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闇市場に出回る金
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