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自閉症だけでない、グレーゾーンの子にも対応を

発達障害クリニック附属発達研究所所長 神尾陽子(5)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回は「自閉症」について、発達障害クリニック附属発達研究所の所長で児童精神科医の神尾陽子さんに聞くシリーズを転載します。なかなかイメージしにくい「自閉症」について、神尾さんは科学的なエビデンスによってその実態を明らかにしてきました。治療のみならず支援の環境作りにも奔走してきた神尾さんの姿勢からは、より生きやすい社会になるように、という強い願いが伝わってきます。

◇  ◇  ◇

自閉スペクトラム症が、その名の通り、定型発達から非定型発達まで連続的な分布を示すことが分かったならば、素朴な疑問が湧いてくる。

ほんの少しスコアが低い(自閉症傾向が小さい)だけとか、診断に必要な要素が一つ足りないとかで、自閉スペクトラム症の診断を受けない子たちは、全く問題なくやっていけるのだろうか。今や分布の連続性が分かり、時間とともに症状の軽重や傾向も変わりうることが分かっているわけで、疑問がつきない。

神尾さんはこの、興味深い領域について語る前に、少し言葉をためた。

「ちょっと余談なんですけど、大人を対象にした普通の精神科医と子どもを相手にする児童精神科医は、ある面ですごい仲が悪かったんです。もちろん個別の誰先生と誰先生がという話ではなくて、関心の方向が違うんです。児童精神科医にとって、自閉症を含む発達障害は大きな問題ですが、一般の精神科はそれほど関心がなかったんですよね。むしろ統合失調症ですとか、昔から精神科医の関心の中心だった重度の精神病に関心が強くて、『大人の発達障害』が問題になってきた時に、あるシンポジウムに呼ばれて話したところ、『児童精神科医がさぼっているから、大人の発達障害が精神科に来たんじゃないか』とか言われてしまって(笑)」

大人の発達障害というのは、まさに、自閉スペクトラム症やADHDのような発達障害の症状を大人が持つ場合があって、注目が集まり始めた時から語られるようになった言葉だ。精神科医は、こういったものを児童精神科医の「怠慢」つまり、本来、子どもの頃に診断してくおくべきものを診断していなかったと捉えていたわけだ。

しかし、それは本当にそうなのだろうか、というのが神尾さんの問いである。

「私たち児童精神科医が診ているのは、子どものときに診断がつく人です。その後ずっと大人になるまでは診るわけですが、大人になって初めてっていう人はほとんど会う機会がないんです。精神科医から紹介されたら診ることはありますが、それも、子どものときのデータがないのだから、子どもの頃に児童精神科医が診ていたとしても、診断がついたかどうかも分からないわけです。発達障害という同じ診断名でも、精神科医と児童精神科医が、同じものを見ているかどうか分かりませんよね」

つまり、神尾さんが疑っているのは、大人の発達障害と呼ばれるような人たちのすべてとはいわずともかなりの程度は、子どもの時には診断がつかない「診断閾下(いきか)」(サブクリニカル)のグループだったかもしれないということだ。

「児童精神科が関わる範囲でも、乳幼児健診のときには診断閾下でも、結局後で問題になるケースがいっぱいあります。ちっちゃいときにあんまりはっきりしなくて、学校に上がって不適応で不登校になったり、うつ状態になったり、それでクリニックに来て分かるケースが大きくかかわっているんですけど、そういう子たちって乳幼児健診のときには、閾下でフォローもされていないんですよ」

もちろんこれは、神尾さんがたまたま幅広くいろんな事例に触れているから分かったというわけではなくて、エビデンスに基づいている。とはいえ、ここではまず、診断閾下のお子さんがどんな苦労をすることがあるのか、エピソード的に聞いた。

「もちろんいろいろなケースがあります。例えば、幼稚園に行き渋るお子さんに困っていらして、極端な緊張症だというんですが、健診や幼稚園では『発達には問題ない』『お母さんが気にしすぎですよ』と言われるだけだそうです。だけど、たまたま、ご家族が本当によくお子さんを見てらして、エピソードを聞いたら、やっぱり定型発達ではないし、でも、頭はよさそうだというのが分かりました。とにかく幼稚園は行かないし、家では時々お父さんと大げんかするって言うんですよ。お父さんも必死になって理屈を言うわが子に言い返したりとかして、もう、うんざりってお母さんは言って。それで、何回か来てもらううちに、やっぱり強いこだわりが確認できて、自閉症とはいえないけれども、自閉症的な特性はあるねとはっきりしてきました。そこで特性にあわせた関わり方を親が身につけるペアレントトレーニングのプログラムをここで実施して、すごくよくなったんですよ」

ここでいうペアレントトレーニングとは、具体的にはこんなふうだ。

「まず、その子が楽しめる遊びを親子で一緒に遊ぶ時間を必ずとってもらいました。そして、その遊びを通して、その子がどんな遊び方をして楽しんでいるのかをしっかりと観察し、遊びに合わせてやりとりを広げるように練習していただきました。その結果、その子がどういう場面で安心でき、逆に何がその子を不安にさせ、しまいには感情を爆発するまでに追い込んでしまうのか、親がよく理解するようになったんです。爆発してからなだめるというこれまでのやり方から、あらかじめ見通しを持たせて、選択肢を示してあげられるようになって、お子さんも安心して世界とかかわれるようになりました。そうすると、家でかんしゃくを起こす頻度も減り、起こしても自分から気持ちを切り替えられるようになったということです」

この子の場合、幼稚園に行けないことが大きな問題になっており、なぜ行きたくないのか本人は口を閉ざしていた。幼稚園に行っていたときには問題なく過ごしていると幼稚園の先生は言うのになぜ行き渋るのか。これもペアレントトレーニングを通じて得た、その子が楽しめる遊びの中でのやりとりから突破口が開けた。

「これまでは、なにも教えてくれなかったのに、お母さんがごっこ遊びをしながら上手に聞き出しました。お母さんがウサギの真似をして、『あたしは幼稚園嫌いなんだけど』って言ったら、『ぼくもだよ』って答えたそうです。そこで『どうしたらいい?』って、ウサギに聞かせると『壁になればいいんだよ』って言うんですよ。びっくりしました。4歳でそんな事を考えているなんて!」

ぼくはこのエピソードを聞いた時、まずはクリエイティヴさに胸を打たれ、しんしんと愛しい気持ちがこみ上げてきた。と同時に、やはり胸を締め付けられるような感覚を抱かざるをえなかった。

「幼稚園に行ったら壁になるなんてすごく悲しいから、この子が園でも楽しめるように、わたし、園長先生にお手紙を書いたんですよ。でも『私は発達障害をよく知っているけれど、この子は違います』って園長先生に言われちゃったって。自治体の支援センターの方も園に説明に行ってくださったんですが、何かものすごい自信のある園長先生で、聞いてくださらなくて、がーんとなりました。お母さんももう園を替わろうかと考えていたところ、多分、気にしてくださったのか、あるときに園長先生がその子と一緒に遊んで、『どうして、あれしないの』って聞いたら、『ぼくね、元気ないの。これをしてるときは元気だけど、あれをするときは元気がないの』と言ったのが、何かすごい心に刺さったみたいで、ちょっと対応を変えてくれて、今では連続して通えているそうです。それも行くのが楽しみ! というそうですよ」

実際、この園長先生は、発達障害の子を多く見てきたベテランだと思われる。だから、自分なりに症候のイメージが確立していて、逆に診断閾下の子を最初はそれと認識できなかったということかもしれない。これは当の園長だけではなく、とにかく理解に乏しい扱いというのが、診断閾下の子たちにはよく起こりがちだそうだ。

「他のケースでも、普通学級でしんどい思いをしていて、親が通級指導教室を希望したら、学校から『もったいない、こんないい子が何で通級に行かなきゃいけないんですか』って言われちゃったりするそうです。でも、それは、おとなしくしているから先生から見ていい子なわけで、本人はすごく困ってるんです。やっぱり学校とか園って、まだ先生目線で、集団の場にとってやりやすいかどうかで判断されてしまうことがあります。その子がどういう体験をしているかは、なかなかまだ理解されてないですね」

つまり、診断閾下の子たちは、集団生活になんとかぎりぎり適応しているように見えても、とても無理をしていることがあり、それは既存の学校教育の枠組みでは見逃されがちなのである。

なお、同じ学校といっても、大学は学生の管理がとても緩やかだ。だからかなり楽かと言うと決してそんなことはなく、朝起きられずに単位を落とすなど「自己責任」ゆえの困難が起きることがある。また、さらに厳しいルールで動くことが要求されるような仕事、例えば成果主義の営業職などに就くと、そこで限界を超えてしまうこともある。

以上、神尾さん自身が経験したエピソードを中心に、若干、想像によって補いつつ説明してきた。

では、診断閾下であっても早期発見、早期支援がよい影響を及ぼすことについてよいエビデンスはあるのだろうか。一医師・研究者の実感ではなく、客観性の高い研究があるとより多くの人が確信を持てるのだが。

「まず、海外では、閾下であっても児童期に症状があったら社会的予後はもう全て悪いので、早期対応をすべきだというコホート研究の論文が出ていますね。でも日本では全国レベルでの追跡研究ができていなくて、私自身は、現状から振り返るタイプの『後ろ向き』の研究デザインで見たことがあります。そうしたら、やっぱり大人になってからのQOL(生活の質)が高い人の方は、3歳までに自閉スペクトラム症と診断されていた人の割合が多いんです。知能が高く言語発達が早い人でもそうです。ことばの問題がないのに診断時期が早いというのは、絶対、言葉以外の問題行動があったはずなのに、そうでなかった人よりも予後がいい。早く支援を受けると、家族の理解が早まるから、支援も本人のニーズにフィットしているという結果も出ています。それは愛情がどうこうじゃなくて、本当に子どもが必要としているものを家族が理解するのが大事ということなんです」

もっとも、現状は「軽度」や「診断閾下」でも後に医学的治療が必要になるような子どもまで早期から対応できるのかという問題が常につきまとう。特に、診断閾下の子は10パーセントくらいいるかもしれないので、すべて(児童期に)医療機関で拾い上げるのは無理だ。それを志したら、もっと治療や支援を必要としている子たちに割けるリソースも削がれてしまうだろう。

「だからまずは、1次予防といって良い環境づくりをすることが大事です。たとえば、現在、京都府で行政もテコ入れしてくれて社会実装している学校プログラムがあるんですが、それは、通常学級で、定型発達の子だけでなく、発達障害の子や、診断閾下の子も含めて、だれもがどこか当てはまることがあるような心の問題に対処するというものなんです。漫画仕立てにして、イライラをどうやって抑えるかとか、不安とどう付き合うかとか、落ち込みやすい人はどうすればいいかとか、いろんな問題を想定しているので、問題を一つに絞ればそういう意味では浅いけれども、関係ないって子がいないように、どの子もどれか当てはまるような内容にしています」

そのようなプログラムには、実際の効果があるのだろうか。神尾さんたちは、プログラムを実施した京都、岐阜、埼玉の8つの小学校の24通常学級(4~6年生)で効果測定を行った。それらのクラスに在籍する全児童715名のうち、保護者から同意の得られた児童395名を、プログラムの終了直後と3カ月後、2回にわたって評価したところ、定型発達の児童だけでなく、発達障害が疑われる児童も含めてクラス全体で自己効力感が増していたそうだ。また、プログラム直後よりも3カ月後の方がより効果が高く出ることも分かった。さらに、全般的なメンタルヘルス尺度も総じて改善した。学校で子どもたちに直接、メンタルヘルスの問題を乗り越える方法を教えることが、子どもたちの暮らす学級の風土そのものを変え、自閉症傾向があるないにかかわらず(もちろん、診断閾下の子も含め)、過ごしやすい場を作ることに役立ちうるというのが現時点での見解だ。

「次に2次予防があって、それが早期発見と早期対応です。早期発見には効果的なスクリーニングが大切ですが、さらにその後の早期対応の校内および校外の支援体制を整えることも大切です。それで、実は自治体の幼稚園の先生や保健師さんへの研修を始めたんです。例えば東京都練馬区では、幼児の早期発見のシステムを今年度から入れます。保健師さんが発見できるスキルを身につけて、親に適切に説明できるスキルも身につけるのが最初で、でも、そこだけでは終わらないから、どうやって区の中で支援のネットワークをつくるかというのが翌年の課題ですね」

さらに3次予防というのも考えられており、それはすでに学校にいけなくなった不登校児童生徒が長期的に見て社会的に自立できるのが目標だ(再登校が目標ではない)。「将来生きていくためや仕事に役立つ技術や技能の習得についての相談や手助け」「心の悩み」「自分の気持ちをはっきり表現したり、人とうまくつきあったりする方法についての指導」といったニーズがあることは分かっており、これもやはり医療だけではこなしきれないことが明らだ。医療と教育の連携が、この分野では本当に求められているという。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2020年5月に公開された記事を転載)

神尾陽子(かみお ようこ)
 1958年、大阪府生まれ。発達障害クリニック附属発達研究所所長。児童精神科医。医学博士。1983年に京都大学医学部を卒業後、ロンドン大学付属精神医学研究所児童青年精神医学課程を修了。帰国後、京都大学精神神経科の助手、米国コネティカット大学フルブライト客員研究員、九州大学大学院人間環境学研究院助教授を経て、2006年から2018年3月まで国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長を務める。現在は発達障害の臨床研究や教育・医・福祉の多領域連携システムの構築に携わる傍ら、診療活動や学校医および福祉施設の嘱託医を務めている。一般向けに『ウタ・フリスの自閉症入門』(中央法規出版)、『自閉症:ありのままに生きる』(星和書店)などの訳書がある。
川端裕人(かわばた ひろと)
 1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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