(イラスト:福田玲子、『「会社がしんどい」をなくす本』より)

Bさんの件について人事部にフィードバックをしたところ、人事担当者は苦笑いし「やっぱりその話題でしたか。彼女が今回の異動について強い不満を持っていることはよく理解しています」とのこと。

そしてこう続きました。「しかし彼女の広報企画室での6年間の仕事ぶりは、決して褒められたものではなかったのです。職場で年長なのをいいことに、自分の苦手なパソコン作業は後輩に全部丸投げし、一向にスキルアップしようとしません。提案する企画やアイデアもどんどん時代遅れになっていることに気がつかないし、後輩のアイデアが採用されると陰でネチネチと不満や嫌みを言うので、上司が困っていたんですよ」

加えてBさんは今までも同じような不適応を起こしていて、すでに3回以上異動を繰り返していることが分かりました。「営業は嫌、店舗での接客も苦手、総務など管理部門のパソコン作業の多いところもダメだったから、もうBさんの受け入れ部署はコールセンター以外にないんですよね」とのことでした。

翌月に再び面談をすると、Bさんはメンタルクリニックを受診し睡眠薬や頭痛薬を処方され、症状は少しましになったとのことでした。

そしてBさんは「あれからまた人事面談があり、会社が私のことをどう評価しているかよく分かりました。本当はこんな低い評価しかくれない会社にはもういたくない。若かったらさっさと転職するところだけど、この年だと転職も難しいことはよく分かっています。仕方ないから定年退職までコールセンターで我慢しますよ」と、少し投げやりな調子でしたが、ふっきれたような表情で話してくれたのでした。

今までの仕事ぶりが総決算されていくベテラン世代

Bさんのようにベテラン社員になってから不本意な異動を会社から提示され、心身の不調を訴える例は、産業医として時々お目にかかるパターンです。

この年代になってから想定外の部署への異動は、かなりのストレスがかかります。50代前後からは若いころと比べると体力面でもメンタル面でも適応能力が落ちてくるので、新しい仕事を覚えたり新しいシステムになじんだりすることに対して、どうしても苦労が伴います。

また50代に入ると定年退職が近くなっていることから、自分なりに組織人としてのゴールをイメージしている人も多く、そのイメージが不意に崩されてしまうと、なかなか修正が難しいようです。

そのためBさんのように産業医に不調を訴えて、なんとか自分の置かれた環境を変えようとする人も少なくないわけです。

しかし異動に関しては、あくまでも会社に決定権があります。会社はそれまでの仕事ぶりや能力、評価を総合的に判定し人事配置を決定していきますから、「この仕事が合わないから、変えてほしい」という個人的な希望が必ずしも通るとは限りません。

中にはクリニックから「適応障害」という診断書を取得して、「症状の改善のためには環境調整が必要である」というのが主治医の意見だと主張する社員もいますが、個人的な理由によって不適応を起こした社員の異動をかなえるのには限度があります。

ある程度の規模がある組織ならば、事情によっては何回か部署を異動させてくれるかもしれません。しかしBさんのように過去に複数回、不適応を起こして職場を異動した経歴がある場合は、かなり難しくなるでしょう。

Bさんは不承不承でもコールセンターの仕事を受け入れることに納得しましたが、もしこのまま異動に強くこだわって不満や抵抗を続けた場合は、退職勧奨されてしまう可能性もあったのではないかと思います。

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