ただの物忘れ?「軽度認知障害」かも 4割が認知症に

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写真はイメージ=PIXTA
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日常生活に支障が出るほどではないが、同世代の平均に比べて物忘れが多い。そんな状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼ぶ。認知症になる確率が4割を超すという報告もあるので侮れない。早期発見が大切だ。

タレントの名前や読んだ本の題名が思い出せない。こうした固有名詞の記憶が怪しくなるのは加齢とともに誰にでも起こりうることだ。ただ「昨夜の食事に何を食べたか」「先週誰に会ってどんな話をしたか」など自らの行動に関する内容、いわゆる「エピソード記憶」を忘れてしまうことが増えたら要注意。認知症の前段階かもしれない。

こうした加齢による物忘れと認知症の境界にある状態がMCI。認知症専門の和光病院(埼玉県和光市)の今井幸充院長は「日常生活に大きな支障はなく、認知機能の検査もほぼ正常範囲。しかし記憶力などが明らかに年齢の平均より劣っている状態と考えてほしい」と説明する。

MCIでも食事やトイレ、入浴といった動作にほぼ問題はない。ただお金の計算や料理の段取りがうまくできなくなったり、自分の予定や相手との約束をよく忘れてしまったりする。同じ会話や質問を繰り返すこともある。

予兆があれば、病院で診察と検査を受けることになる。かかりつけ医に相談し、必要に応じて脳神経内科や脳神経外科、認知症専門医の「物忘れ外来」を紹介してもらう。記憶力や認知機能を調べるテスト、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)での診断、血液検査などで判断する。

今井院長は「MCIの4割以上がアルツハイマー型認知症に移行する。何より早期発見が重要だ」と指摘する。アルツハイマー型認知症は現状では完治できない。ただMCIの段階で発見して対策をとれば、進行を遅らせることも可能になってきたという。

物忘れは年齢のせいだと軽く考え、病院での診断を敬遠する高齢者もいる。そこで「本人はもちろん、家族や周囲の人がMCIのサインに敏感になることが大切だ」と今井院長は強調する。