
◎中華そばえもと(東京・中目黒)
本年3月、新装開店!試行錯誤の末にたどり着いたネオクラシックの最適解
続いてご紹介するのは、『中華そば えもと』。2014年9月に開業した人気店『らーめん恵本将裕』が本年3月、全面リニューアルした店だ。同店の店長・佐藤栄市氏は、煮干しラーメンの人気店『ラーメン凪(なぎ)』(東京・新宿)のご出身。『凪』でラーメン作りのノウハウをみっちりと学んだ後、『恵本将裕グループ』へと移籍。同グループの味づくりなど、肝心要の部分を任されている一線級のラーメン職人だ。
店舗の場所は、東急東横線と東京メトロ日比谷線が乗り入れるターミナル駅、中目黒駅から徒歩2分ほど。
大通りから一本中へと入った路地に佇(たたず)み、店舗入り口は、階段を数段降りた半地下。隠れ家とまでは言わないが、知る人ぞ知る穴場的なロケーション。
漆黒に塗装された外壁に木材本来の温かな色合いを生かした看板は、シンプル・イズ・ベストそのもの。燃えさかる炎のように真っ赤な提灯(ちょうちん)も、外観演出上のアクセントとして、抜群の存在感を発揮している。
作り手のセンスの良さが投影された、無駄のない機能的な外観。この外観を見れば、食べ手も期待値を高めざるを得ないだろう。
店舗の入り口付近に券売機が鎮座。現在、同店が提供している麺メニューは、「中華そば」とそのバリエーションのみで、ラインアップは実に潔い。

同店のデフォルトメニューは、券売機の左上にボタンが配置された「中華そば」。「チャーシュー麺」や「メンマそば」もいいが、個人的に特にオススメしたいのが「中華そば」に生卵を落とした「月見中華そば」だ。
店長の手際は実に鮮やかで、注文からわずか5分弱でラーメンが登場。丼の底まで見通せるほどの透明度の高さを誇るこはく色のスープは、理屈抜きに魅惑的。あえて不規則に刻まれたネギや、「の」の字が描かれた桃色のナルトが、たとえようのないノスタルジーを演出している。
動物系素材(豚ゲンコツ)と魚介素材(2種類の煮干し・サバ節・宗田節)を、クオリティーに細心の注意を払いながら厳選し、寸胴で丁寧に炊き上げたスープは、前日の残りのスープを日々継ぎ足す「呼び戻し」の手法を採り入れたもの。
味蕾(みらい)に触れた瞬間、煮干しの滋味とサバ節の和風味が味覚中枢を直撃。魚介の華やかなうま味を支える土台としての動物系のコクも、実に骨太だ。
このスープに合わせる麺も、佐藤店長と製麺所の試行錯誤のたまものである。水魚のごとくスープと交わり、放たれる艶やかな小麦の香りが鼻腔(びくう)をくすぐる。
提供当日の朝に仕込む自家製メンマと旨辛いチャーシューを、テンポ良くほお張りながら食べ進めていくと、いつの間にか完食。「多くは望みません。お客様に末永くかわいがってもらえるお店にしていければ」と笑う佐藤店長。
実食し、改めて確信した。店長の願いが現実となる日は、そう遠い未来の話ではないだろうということを。
(ラーメン官僚 田中一明)
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。