「終わりの見えない過重労働」に陥ったOさんのパターン
私の経験から「タフな社員がメンタルを病む」のは、3つのパターンが多いように思います。
1つ目は、「終わりの見えない過重労働に陥ったとき」。まさしくOさんのパターンです。
タフな社員は繁忙期の長時間残業なんてヘッチャラという人も少なくありません。過重労働から面談に呼んでも、「元気なんで大丈夫です」とさっさと退席していくこともしばしば。
しかしいくらタフであっても、終わりの見えない長時間残業が続いている場合は要注意です。彼ら彼女らは今までの活躍ぶりを評価されて、ビッグなプロジェクトのリーダーに抜てきされたり、重要な部署の管理職を任されたりすることがありますが、そのようなところでは、プレッシャーや仕事量が多く、スタッフ全員が慢性的な疲労を抱えがちです。
順調に仕事が進んでいるときはまだよいのですが、何か問題が発生したり臨時の案件が突っ込まれたりするととたんに業務量がキャパオーバーとなり、ストレスに弱いスタッフから病んでしまって戦線離脱する、ということも珍しくありません。
昨今は欠員が出たとしてもすぐに補充してもらえることが少なく、働き方改革で若手社員には長時間の残業をさせられなくなっている事情も重なり、管理職やリーダーが欠員分の仕事をこなしていくという事態に陥りがちです。すると、毎晩終電で帰宅になり、睡眠不足が常態化。さらに土日にも仕事をしたり……と心身に疲労が蓄積していきます。
こういう状態が半年以上継続すると、いくらタフな社員であっても心身のどこかに異常が出てくるのです。
会社側はタフな社員に甘えて、1人に負荷をかけ続けてはいけません。特に裁量労働制になっている管理職は、過重労働になっていないかどうか常にチェックが必要です。
「家族が大きな病気になった」パターン
家族が病気になって入院したときも、タフな社員がメンタルを病みやすいパターンの1つです。
特に妻が病気になって入院して回復が長引いたとき、今までバリバリ働いていたタフな男性社員がメンタルを病むというパターンに少なからず遭遇しました。
それまで家事や育児を妻がメインで担ってきた場合、妻が倒れると私生活は一気に機能不全に陥ります。すぐに親などがヘルプに駆けつけて手伝ってくれる場合はよいのですが、それが無理だと慣れない家事、子どもの世話、保育園の送り迎えを夫が1人でこなさねばならなくなります。
特に男性は、「子どもや家の用事で仕事を軽減してほしい」と職場で言いづらい傾向があるため無理を重ねがちです。
また子どもや家族の病気や入院が長引いて、女性社員が看病のために過労状態になってメンタル不調や体調不良になるケースや、遠方に住んでいる高齢の親の健康状態が急に悪化し、休日のたびに長距離を往復して介護や施設の手配に数カ月奔走し、心身のエネルギーを消耗してうつ病になったケースもありました。
こうしたプライベートのストレスが長い期間続きそうなときは、男性も女性も、まずは正直に上司や人事部に相談して仕事量の調整をお願いする必要があります。
「クレーム対応や陰湿ないじめが長引いた」パターン
いくらタフな社員でも、ネガティブな人間関係ストレスに長期間さらされるのは危険です。
例えば難しい交渉にたけていると社内では一目置かれていた40代の中間管理職の男性が、理不尽な要求を繰り返すクライアントの担当となり心身を病んだケースがありました。
そのクライアントは、一方的に納期の変更や契約外のサービスを求めたり重箱の隅をつつくようなクレームを繰り返したりしては怒声を上げるタイプでした。わがままなクライアントの対応に翻弄され続けて数カ月後、ようやく仕事が終了してホッとした直後から動悸や冷や汗に襲われるパニック障害を発症して、彼は休職してしまったのです。
また大手美容会社のキャリア女性のケースは、陰湿ないじめが原因でした。彼女は系列の販売店の店長が急に病気となったために、本社から臨時の店長として抜てきされたのですが、その店の美容部員が商品のマニュアルを勝手に省略して販売したり、所定の時間外に休憩をとったりしていることに気がつきました。
彼女は美容部員たちに注意し指導しました。しかしそれを逆恨みした美容部員たちが結託して、必要な報告を伝えない、あからさまに無視する、郵便物や私物を故意に紛失させるなど陰湿ないじめを始めました。
今まで本社のエリートビジネスパーソンの中で働いてきた彼女は、その幼稚で陰湿なやり方にショックを受け、本社の上司に相談したものの、上司は「あと数カ月だから我慢しろ」の一点張り。次第に不眠状態となり、食欲も減退して心療内科を受診したところ「適応障害」の診断が下り、休職になりました。
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以上、3つのパターンを紹介しました。どのパターンにも共通して言えるのは、上司や人事部などが、部下や社員が過重労働になっていないか、過度なストレスにさらされていないかを把握し、会社として速やかに適切な対策をとることが重要だということです。
[日経Gooday2021年6月11日付記事を再構成]
