貧困の終焉、日本の高度成長モデルが力に

サックス 確実に近づきつつあります。実際、中国はすでに成し遂げています。中国は2005年から2020年までの15年間で、貧困を終焉させました。これは大きな功績です。

実は、2005年に「2025年までに貧困を終焉させる」という野心的な目標を設定する勇気を与えてくれたのは、日本の高度経済成長です。1960年、日本の池田勇人首相(当時)は、「国民所得倍増計画」(10年間で国民所得を2倍にする経済政策)を掲げ、日本はその後、目標以上の経済成長を達成しました。この実績は全世界に重大な教訓をもたらしました。国が本気で努力すれば、短期間で経済成長を実現できるし、国民の貧困も終焉させられることを日本が実際に見せてくれたからです。その後、アジアの国々が日本の成長モデルを次々に導入しました。

もちろん、世界はすべて私が望んだような方向には向かいませんでした。米国はあまりにも多くの予算と時間を戦争に費やしてしまいました。貧困の終焉に使うべき予算をイラク、アフガニスタン、シリア、リビア、イエメンなどでの戦争のために使ってしまいました。数兆ドルもの軍事費を貧困の終焉と持続可能な経済の実現のために向けていたら、どれほどよい世界が訪れていたでしょうか。貧困の終焉のためには、より優れた政治が必要なのです。

(c)EFA, 2019

日本の貢献を象徴するJICA

佐藤 パンデミック後、日本は世界経済の成長やSDGsの実現にどのように貢献できると思いますか。

サックス 日本はこれまでも持続可能な世界の実現に向けて、大きな貢献をしてきました。その象徴的な組織が国際協力機構(JICA)です。JICAはこれまで、人間の安全保障、世界の人々の健康の増進、教育の向上、世界の国々のインフラ構築のため、実用的なソリューションを提供してきました。JICAのプロジェクトを見ていると、日本には優れた技術、製品・サービス、ソリューション、知識があると感じます。

SDGsの実現には、日本企業の貢献が欠かせません。私は長らくアフリカのマラリア対策に関わってきましたが、マラリア予防に大きな貢献をしたのが日本の住友化学です。住友化学は自社の技術をマラリアに苦しむ人々のために役立てられないかと考え、1994年、防虫剤処理を施した蚊帳の開発に成功しました。この蚊帳は計り知れないほど多くの人々の命を救ってきました。

温暖化ガス排出量の削減にも貢献できると思います。トヨタ自動車をはじめ、日本の自動車メーカーは、長年、燃費効率のよい自動車を製造してきました。そしていま、ゼロエミッションの車を開発しています。日本企業は、自動車・トラックの製造、造船、ロボティクスなどの分野で世界トップレベルの技術を持っています。これらの技術は、持続可能な世界を実現する上で、欠かせないものです。

パンデミック後に必要なのはグリーンリカバリーです。日本が技術の分野で世界のグリーンリカバリーを主導していくことを期待しています。

ジェフリー・サックス Jeffrey D. Sachs
 コロンビア大学教授。同大学ユニバーシティ・プロフェッサー(教員に授与される最高位の名誉称号)。専門は開発経済学。国際連合「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」ディレクター。国際連合事務総長特別顧問としてSDGs策定に携わる。米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に2度選出。著書『貧困の終焉』(2005)は世界的なベストセラーになった。近著に『The Ages of Globalization: Geography, Technology, and Institutions』(2020, Columbia University Press)。

※本シリーズは随時公開します。