病理医が明らかにする死因 老衰は「大往生」か『病理医が明かす 死因のホント』

死因の究明には病理医が欠かせない
死因の究明には病理医が欠かせない

人として誰もが迎えなければならない死。しかし、健康な大半の人は日常あまり意識することがない死。病理専門医の著者が私たちに死に対する気づきを与えてくれるのが、今回紹介する『病理医が明かす 死因のホント』だ。病理医とはどんな職業か、患者の病気で多い死因は何か、病気のメカニズムと死に至るそのプロセスに解説を試みつつ、テーマは病理医を取り巻く環境、病理解剖の現状といった構造問題にも及ぶ。病気にかかった人はもちろん、健康で特に若い人が死とどう向き合うかを考える上で参考になる一冊だ。

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著者の榎木英介氏

1971年生まれの著者は95年に東京大学理学部生物学科動物学専攻を卒業後、神戸大学医学部医学科に学士編入学。卒業して医師免許を取得し、06年に医学博士となりました。その後、神戸大学医学部付属病院特定助教、兵庫県赤穂市民病院勤務、近畿大学医学部での病理解剖と研究倫理担当を経て、20年にフリーランスの病理医として独立、現在に至ります。主な著作に『博士漂流時代』(DISCOVERサイエンス)などがあります。

老衰の判定基準のあいまいさ

病理医といっても、具体的な仕事についてイメージできる人はあまり多くないでしょう。病理診断をする資格をもった医師で、患者から採取した臓器や組織、細胞などの標本を顕微鏡などで観察し、病気の有無や病気の種類、病気の進行具合を調べ、報告書を書く。病気や患者の死と日々向き合い、臨床では判明しにくい病気の状態を調べたり、死因を特定したりするのが仕事です。ただ、著者によると、病理医は約30万人いる医師の中で、全国にたった2000人程度しかおらず「一般には知られていない職種なのも無理はない」といいます。

しかし、病理医の仕事の意義は決して小さくありません。患者の死後に行う病理解剖では、死因の究明を通じ、生前の診断や治療が適切だったか、薬の副作用や医療機器に問題はなかったかなどを明らかにすることで、医師の医療行為のチェックや医師の教育に役立ち、ひいては医療の質向上につながると、著者はその必要性を強調します。

私たち病理医は生前患者に会うことはない。病理医は患者に関わる最後の医師だ。遺体になって初めて患者と対面する。遺体に残された痕跡を丹念に観察することで、その人たちがどう生きてきたか、そしてどう死んでいったかを知る。
(はじめに 7ページ)

生前わからなかった病気を死後に解明することは、いわば病気で亡くなった患者が残した「最後の声」を聞く作業にほかならず、その役割は重要です。

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病理医と病理解剖の「構造的苦境」
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