ホームドラマ10選 懐かしの作品から「ぎぼむす」まで
コロナ禍で、ふと思いを寄せるのが身近な家族。テレビドラマはその姿を様々な物語に紡いできた。今こそじっくり見直したい作品を専門家が選んだ。
1位 岸辺のアルバム (TBS)
890ポイント 社会に綻び 現実路線に
家族ドラマを革新した作品、と藤田真文さんが明言する「岸辺のアルバム」。
東京郊外、多摩川沿いの戸建てに住む中流の親子4人。幸福そうにみえるが、父親(杉浦直樹)が勤める会社は苦境にあり、妻(八千草薫)は不倫に走る。秘密が暴かれ、破綻する「アンチホームドラマの精神」(大山くまおさん)で家族ドラマを「リアリティー路線に変えた」(草場滋さん)画期的な名作だ。
絆を見失った時に「家族は何ができるのか」(中町綾子さん)。そんな強烈な問いを視聴者に投げかける山田脚本の重みを宇佐美毅さんは指摘する。高度成長が終息し、社会がほころび始めた時代を重ね合わせた物語に、太田省一さんは鋭い観察眼と批評性を見る。
クライマックスは1974年の多摩川の堤防決壊がモチーフ。「ニュース映像とドラマ映像を組み合わせた演出」(山下柚実さん)は臨場感満点。家族が嵐の中に集い、家が流される前にアルバムを持ち出す。偽りのだんらんも収めたアルバムは絆の再生の象徴とは言えない。それでも「この家族は"復興"したのでは」と山田美保子さんは希望をつなぐ。
ジャニス・イアンが歌う主題歌は筋立てに似合わぬ甘やかなメロディー。だが、その歌詞はシニカルで、あきらめの香りに満ち、妙にドラマの内容にシンクロする。
(1)(シリーズ)放送開始年 1977年(2)脚本 山田太一(3)主要な動画配信サイト Paravi(4)DVD・BD販売元 KADOKAWA
2位 北の国から (フジテレビ)
860ポイント 21年、一編のドキュメンタリー
不器用だが、北海道の大自然のような包容力を持つ父親、黒板五郎を演じた田中邦衛。子供の純(吉岡秀隆)、蛍(中嶋朋子)と不便な暮らしの中で衝突し、葛藤し、慈しみ合う姿を、スペシャル版を含め21年間、丁寧に描いた。
「子供が成長し世相にリンクしていくさまが圧巻」(大山さん)、「視聴者もその成長を見守る家族の感覚になる」(藤田さん)。
山田さんは一家族と時代の変遷を追った一編の「ドキュメンタリー」になぞらえる。「夫婦不和や経済格差など世知辛い現実を織り交ぜた社会派ドラマ」(吉田潮さん)でもあった。
(1)1981年(2)倉本聰(3)FOD(4)ポニーキャニオン
3位 寺内貫太郎一家 (TBS)
660ポイント 人情劇、コメディーの原型
下町の石材店一家の人情劇で「今のコメディーのフォーマットを作った」(成馬零一さん)。小林亜星演じる頑固おやじが長男役の西城秀樹と取っ組み合う。祖母役の樹木希林が沢田研二のポスターを前に「ジュ~リ~」と身もだえる場面など「ポップな久世光彦の演出と向田脚本の融合」(田幸和歌子さん)が絶妙だ。
一方、足が不自由な娘など「古き良き大家族の陰の部分も描く」(大山さん)。ペリー荻野さんが感嘆するのは「痛みを抱える家族が気遣いながらもぶつかりあう描写」だ。吉田さんは昭和の家族の「寛容」を見る。
(1)1974年(2)向田邦子(3)Paravi(4)TCエンタテインメント
4位 義母と娘のブルース (TBS)
500ポイント 泣き笑いさせる脚本 秀逸
血のつながらない母娘が、やがて本物の親子になる。よくある話だが、綾瀬はるか演じるキャリアウーマンが不器用に、純粋に「母親とは」を突き詰め、義理の娘との関係を築く姿に、中町さんは「家族のかけがえのなさ」を痛切に感じたという。
原作は桜沢鈴の漫画。母娘がすれ違い、歩み寄る「距離感の伸び縮みが光る」(山下さん)。小林幸恵さんは、キャリアウーマンらしい所作や愛情表現で泣き笑いさせる脚本が秀逸、と評価する。
産まなくても母になれる選択肢や、育児を通じた「自分の育て直し」。そんな「新しい時代の家族のあり方が提示された」(田幸さん)作品だ。
(1)2018年(2)森下佳子(3)Paravi(4)TCエンタテインメント
5位 連続テレビ小説「あまちゃん」 (NHK)
440ポイント 震災にも向き合う意欲作
アイドルになる母の夢を娘が実現する。成馬さんは「母親の呪いを娘が解く」ドラマと表現する。軸は祖母と母、母と娘の天野アキ(のん)という2組の母娘の物語だ。それぞれの時代描写や主人公の再生の語り口が巧みで「震災にも向き合った意欲作」(ペリーさん)。
別居婚や同居する元夫婦など朝ドラに「新しい家族形態を入れ込んだ」(吉田さん)点が新鮮で、男性より女性がたくましい。「これまでに朝ドラを見たことがない層に見せた」(山田さん)ゆえに「あまロス」なる言葉も生まれた。
(1)2013年(2)宮藤官九郎(3)NHKオンデマンド(4)NHKエンタープライズ
6位 阿修羅のごとく (NHK)
430ポイント 向田邦子&和田勉の傑作
寡黙な老父の不倫が発覚する。怒りの炎を静かに燃やす母。その母を気遣う、いしだあゆみら4人の娘も秘め事や葛藤を抱える。
一見穏やかな家族の足元から噴き出すエゴや疑心、嫉妬。「愛すべきものである家族を容赦なく、自在な筆致で描いた」(太田さん)作品は「向田脚本の最高傑作」と草場さんは言う。
テーマ曲、トルコの軍楽が耳に残る。女優陣の演技力も圧倒的、とペリーさん。「ミニカーなど小道具を使い深層心理を見せる和田勉の演出」(小林さん)がさえ、当作品を超えるリメイクは金輪際作れない、と吉田さんは断言する。
(1)1979年(2)向田邦子(3)NHKオンデマンド(4)NHKエンタープライズ
7位 金曜日の妻たちへ (TBS)
360ポイント ニューファミリーを象徴
後にシリーズ化され「不倫ドラマ」と記憶されがちな「金妻」は、東京郊外に一戸建てを求めた核家族3組の「ニューファミリーを象徴するドラマ」(藤田さん)だ。主人公らは団塊に重なる世代で、豊かな時代を映す生活ぶり。田幸さんは「対等な夫婦関係、そして本来は家庭の中に普通にあるセックスをホームドラマで描いたのが斬新」と話す。
吉田さんも「家族の前に、夫婦は男と女なのだと子供心に思った」と振り返る。「子供がいない夫婦の絆の強さに触れていたところも救いがあった」
(1)1983年(2)鎌田敏夫(3)Paravi(4)エスピーオー
7位 時間ですよ (TBS)
360ポイント 「人情」「家業」 かみしめる良作
銭湯を舞台にした1965年の単発ドラマがシリーズ化。森光子、堺正章、樹木希林ら芸達者がそろい、劇中コントも挿入された。演出家・久世光彦の出世作。山下さんは「死語になりつつある『人情』『家業』をかみしめる良作」と評する。
「従業員まで含めた温かい大家族の雰囲気」(宇佐美さん)が懐かしいが、単なる人情コメディーではない。「跡継ぎ問題や二世代家族の悩みなど本筋もしっかりした」(草場さん)笑って泣ける画期的な作品だった。
(1)1970年(2)橋田寿賀子、小松君郎、向田邦子ら(3)Paravi(4)TCエンタテインメント
9位 最高の離婚 (フジテレビ)
350ポイント 刺さるセリフ アクセント
価値観がかみ合わずに離婚しながら同居を続ける、永山瑛太と尾野真千子演じる元夫婦。ある秘密を抱えた真木よう子と綾野剛のカップル。2組の男女が絡みながら「一緒に暮らす意味」に向き合う。「気持ちのすれ違いが、いかにささいで大事かを絶妙な演技や演出で見せた」(中町さん)
小林さんは「お互いを思いやれない姿を描いた見事なキャラ設定」を高く評価。結婚を拷問に例えるような「刺さるセリフの連続」(太田さん)が、リアルな日常会話の中に強烈なアクセントをつけている。
(1)2013年(2)坂元裕二(3)FOD(4)ポニーキャニオン
10位 渡る世間は鬼ばかり (TBS)
300ポイント 世相を反映 新鮮さ保つ
「ホームドラマは長いほど本領を発揮する」と成馬さん。橋田脚本・石井ふく子プロデュースの「渡鬼」がこの命題を証明する。シリーズ10本と特別版の計511話。嫁姑(しゅうとめ)問題や「家族の面倒くささ」(山田さん)の追体験も含め「視聴者の共感を引き寄せた」(宇佐美さん)のが長寿の理由だ。
「のぞき見たようなリアルさ」(田幸さん)で岡倉家の夫婦と娘5人の家庭の日常と変化を描く。「遺産相続や介護など世相も反映させ続けた」(草場さん)ことで、物語が新しさを保った。
(1)1990年(2)橋田寿賀子(3)Paravi(4)――
日経生活モニター会議番外編 もう一度見たい家族ドラマ
心に焼きついた名演技や名シーン。日経生活モニターに挙げてもらった「もう一度見たい家族ドラマ」にはそれぞれの思いがこもる。「北の国から」は幅広い世代が支持。「つつましい暮らし方は今の時代にこそ必要」(50代女性)との指摘も。「おしん」は高齢者の回答が比較的多く「幼いころの日本の原風景を思い出す」(80代男性)。
生放送もあった「ムー一族」(TBS)は「子供ながらに大変だろうなと思った」(50代女性)。「前略おふくろ様」(日本テレビ)は個性派ぞろい。「萩原健一、梅宮辰夫、小松政夫。みんな亡くなった」(40代男性)。「雑居時代」(同)には「石立鉄男と大原麗子の恋を応援せずにいられなかった」(60代男性)と懐かしむ声もあった。
多様化続く家族 令和の名作 期待
「家族」とはあいまいな存在だ。現行民法にも明確な定義はない。大家族、核家族、義理の親子、同居する仲間……。家族観は移ろい、テレビ視聴者の数だけ思い浮かべるカタチがある。
「家族ドラマ」の解釈も人によって異なるものだ。「おしん」は家族の物語というより一代記の印象が強いとの指摘が多かった。専門家の採点も割れた。ランク外や、個別に聞いた審査対象外のイチ押しには「パパと呼ばないで」「Mother」「家政婦のミタ」など新旧の秀作が並ぶ。
家族の日常的な距離感も、抱える闇も、世相を映しながら多様化し続ける。家族ドラマの土壌は実に豊か。名作が多いゆえんだ。ただ寂しいことに最近、名だたる脚本家や俳優が相次ぎ逝去された。アーカイブの重要性を痛感するが、全編を見られない有名作品もあるのが残念だ。
家族ドラマはこのところ刑事や医療モノに押されがち。だが、現代だからこそ描けるテーマもあるはずだ。それは「老い」か、「孤立」か。令和の制作陣はどんな名作を生み出せるのだろう。
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(名出晃)
[NIKKEIプラス1 2021年6月5日付]
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