【2000年以降】着心地や機能性重視 多様性や愛着志向へ

「渋谷系」「裏原系」ストリートファッションが浮上(三宅一生/PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE<ISSEY MIYAKE1994年春夏コレクション映像より>/1993年 撮影:フィリップ・ブラジル)

1990年代半ば以降は「おしゃれ」の意味合いに書き換えが進みました。それまでの見栄え重視から転じて、着心地や機能を重んじる傾向が強まりました。全体に軽やかな装いが好まれるようになり、性別にとらわれない「ジェンダーレス、ユニセックス」の流れも加速。ノースリーブ・トップスやTシャツ、ショートパンツ、デニムパンツ、クロップド(短め丈)パンツを着る女性が増えました。足にやさしいスニーカーやフラットシューズの出番が広がったのも、この時期の変化です。

「ファストファッション」と呼ばれる、価格の安い大量生産型のアパレルビジネスが勢いづく一方で、服と丁寧につきあう意識も強まりました。愛着を持って、長く着続けられるような服を選ぶ「タイムレス」志向の消費マインドが背景にあります。

世界に飛躍した「Kawaii」ファッション、リラックスした「森ガール」などが登場(mina perhonen/“pot-au-feu”《コート》/2015年/mina perhonen/撮影:MITSUO OKAMOTO)

「せめて100年つづく」をコンセプトに据えたブランド「mina perhonen(ミナ ペルホネン)」はこうしたニーズを受け止めてきました。手仕事の質感を帯びた一点物はサステナビリティー(持続可能性)の面でも時代のニーズになじみます。ファストファッションへの反省もあって、上質な「一生物」を大事に着るライフスタイルは支持を広げつつあるようです。

古き良き時代を見直しながら未来を向いていく(Mame Kurogouchi/ジャケット、ニット、スカート、ソックス、バッグ、シューズ/2020年秋冬/Mame Kurogouchi)

戦後75年の歴史を受け継いだ、現代のデザイナーは、これまでの流れをそれぞれに消化しつつ、世界に通用するデザインを提案するようになってきました。パリ・コレクションに参加している「Mame Kurogouchi(マメ クロゴウチ)」は、国内各地の工場や職人と連携したクリエーション(創作品)で知られています。

着物の時代から続く、織りや染めの服飾文化は、カルチャーミックスに前向きなデザイナーたちの手によって新たな魅力を備えるようになってきました。多くのデザイナーが日本的な素材や柄を生かしながら、現代のニーズにこたえるデザインを提案しています。

75年間の「遺産」から知恵を得て、今の自分らしくまとう

日々の着こなしを練り上げるにあたって、ファッションの変遷を知ることは、なぜ今この服が世の中で支持されているのか、自分がそれを着たいと思うのかを確認することにつながっていきます。和装から洋装へ様変わりし、女性の社会進出が装いにもパワーを与えました。動きやすさや心地よさを重視する今の傾向は、人生観や暮らしぶりとも深く関わっています。

歴史的な変化を見渡すことによって、時代ごとのルールにとらわれる必要はあまりないという「気づき」も得られます。自分好みの装いに自信や納得感も強まりそう。世界的にも独特といわれる「日本ファッション」の成り立ちや移り変わりを一望できる本展では、これまで知らなかった服の種類や着こなしのバリエーションに目を開かされるはず。膨大な「おしゃれ遺産」は、もっとオリジナルのスタイリングを見つけるきっかけにもなってくれるでしょう。

ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会
https://fij2020.jp
宮田理江
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートからトレンド情報、スタイリング指南などを発信。バイヤー、プレスなど業界経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした解説が好評。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に「おしゃれの近道」「もっとおしゃれの近道」(ともに、学研プラス)がある。

「ファッション」の記事一覧はこちら