「たまたま書店で手に取ったのが、パナソニック創業者の松下幸之助さんの著書でした。自分より優秀な人に囲まれていたいと書いてあり、ハッとしました。部下はダイヤモンドの原石。リーダーがそれを見つけ、しっかり磨いてあげることで輝き始めるのです」

「当時の私は部下に自分と同じ価値観をはめ込もうとしていました。相手へのリスペクト(尊敬)がなく、仲間だという意識も薄かったようです。自分より相手が優れているところを探し、本人に伝えるようにすると、一緒に成長しているのだなと実感できるようになりました」

三菱商事時代は肉類の営業をしていた(右から2人目が竹増氏)

――心に残っているリーダーはいますか。

「牛肉にはもともと、国内畜産物の価格を維持するための輸入枠があり、商社はその枠内で海外から肉を運んでマージン(利幅)を得ていました。ところが、1991年の輸入自由化で大赤字になりました。そんな時、当時の部長は思いきってビジネスモデルを変えようとしました。コンテナで卸売業者に商品を引き渡すのではなく、スーパーや外食に自分たちで直接販売する方法を思いついたのです」

100万回諦めず

「ただ、物流網もなければツテもありません。会社になかなか理解してもらえなかったのですが、その上司は『やりたいことがあるなら100万回言い続ける』とめげませんでした。そのくらいの信念を持てということです」

「7~8人のチームでしたが、全国のスーパーの連絡先をまとめた本を買い、五十音順に電話をかけました。商社の仕事で使う一般的な単位はバルクですが、私たちはキログラム。冷ややかな意見を耳にすることもありました。それでも100万回諦めませんでした。10年もたたないうちに食糧本部で一番稼ぐチームになりました」

――当時の経験をどう生かしていますか。

「とにかく現場に足を運ぶことです。朝一番に肉の加工センターに行っていたのですが、通い続けると従業員の方と打ち解けて会話が弾むようになります。ライバル企業と自社が取り扱うロース肉の違いが話題になったことがありました。肉のブロックを機械で薄切りにするのですが、自社の肉はいつも途中でちぎれてしまうため、扱いにくいというのです。原因は脂でした。無駄なものと思い、そぎ落として販売していたのですが、実はその部分が肉の形を保つ役割を果たしていました。しかも、脂を乗せた状態で売れば、脂の部分もロースの値段で売れるので歩留まりも上がります。そういったことも教わりました。現場をよく知っている人と話すと、思いもよらないことに気付くことがあると学びました」

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