最悪データ破損も 在宅勤務時代、PC守る雷対策は
天気予報が雷への注意を呼びかける日が多くなった。コロナ禍で仕事や授業がリモート化するなか、重要性を増しているのが情報通信機器の雷対策。専門メーカーに対策を聞いた。

訪ねたのは兵庫県尼崎市の雷対策専門メーカー、音羽電機工業。低圧技術部の担当者が詳しく説明してくれた。
まず雷の基礎知識を押さえよう。雷が発生しやすい季節は地域により異なる。年間を通じて多いのは日本海側で、とりわけ冬の雷が目立つ。太平洋側は夏場に多い。近年は気候変動の影響で「ゲリラ豪雨」に伴う雷も増えている。
雷が直撃した場合の被害は想像できるだろう。ただ、被害は直撃だけではなく、電線などを通して建物内に侵入する過電流・過電圧(雷サージ)によって電気製品が故障する事例もある。雷サージは数キロ先まで影響が及ぶので「音が聞こえている以上はリスクが発生していると考えていい」(音羽電機工業)。

なぜ雷サージで被害が出るのか。背景にあるのが電気機器の高機能化だ。ICチップや基板が省エネルギー化、高密度化した結果、少しの電流や電圧の変動にも敏感になっているのだ。
チップや基板の破損は外から見分けにくく、直撃のような大きな電流でない限り原因が雷だとは思い至らない。経年劣化による故障と思い込む場合も少なくないようだ。これが雷の被害についていまひとつ実感がわかず、対策も進まない理由だ。
情報機器はもちろん、家電製品も要注意だ。近年の家電は高度に電子制御化され、ネットワーク端末化も進んでいる。冷蔵庫や洗濯機、エアコンなど様々な電気機器が被害にあう可能性がある。
昨今の住宅の配線の複雑さも雷被害を招きやすくなっている。雷サージの侵入経路そのものが増えているのだ。
雷サージへの対策も必要
コンセントなどの電源線だけではなく、電話線、ケーブルテレビ回線、テレビのアンテナ線、LANケーブルなど、雷サージの侵入経路が多様化している。雷被害対策仕様の電源タップで対応するだけでは不十分で、電話線やアンテナ線を伝って侵入する雷サージへの対策も必要。特にテレビやLAN配線されたデスクトップパソコン、固定電話など「侵入経路が複数あると被害に遭いやすい」(同)。
高層マンションを含む高さ20メートルを超える建物は避雷針の設置が義務付けられている。しかし避雷針があるからといって安心ではない。避雷針は雷から建物を守るもので、建物内の電気機器を守るものではないからだ。
電気機器は本体のスイッチが入っていなくても、電源線や通信線と本体がケーブルでつながっている以上、線を通じて雷サージの被害を受ける危険性がある。したがって、最も簡単な対策はコンセントを抜くことだ。
とはいえ、外出中だったり、給湯器のようにコンセントを抜きにくかったり、冷蔵庫のように長時間コンセントを抜けない電化製品もある。こういう場合は、雷対策機器で対応するしかない。

電源線を保護する場合、手軽に手に入り、設置しやすい機器が電源タップ型の避雷器だ。保護したい機器の電源をこのタップから取れば雷サージから保護できる。
購入時に確認したいのが最大サージ電流値と最大サージ電圧値。数値が高いほど雷サージに対する耐久力が高い。ただし規定量以上のサージが侵入したり、規定量以下でも複数回侵入したりした場合はタップの交換が必要なこともある。
ホーム分電盤に組み込むタイプの避雷器もある。電気工事士の施工が必要だが、家中の電源線の雷サージ対策を1カ所でまとめられ、アースから侵入する雷サージにも対応できる。この避雷器は規定値内の電流値なら何度でも使用できる。多大な雷サージが侵入しない限り、一度取り付ければ推奨交換時期まで何度も使えるのだ。
タップ型と分電盤型のどちらで保護するかは、予算や手間、保護する機器の数との兼ね合いになるだろう。
アンテナ線やLANケーブル、電話線などの通信線を保護する場合、先ほど紹介したタップ型のように取り付けが簡単な製品が売られている。各種を買い合わせると安い買い物ではないが、保険として購入する価値もありそうだ。
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データ損失 ノート型は強い

雷による被害には、物品の破損や故障だけではなく、パソコンや記録媒体に残されたデータの破損も含まれる。顧客名簿や収支データのほか、家族の画像や映像など、消失すると金額だけでは測れない損失を生み出す。パソコンのデータのバックアップ頻度を上げたり、取り外し可能な外部ディスク(写真)に保存する、あるいはネット上のクラウドサービスに保存するのも有効だ。例えば、持ち運びを前提にし、ケーブル類の常時接続を必要としないノートパソコンは、雷被害の対策上、デスクトップパソコンよりも安心だと言える。
(家事ジャーナリスト山田 亮)
[NIKKEIプラス1 2021年5月29日付]
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