ビームスの設楽氏が述べているヨーロピアンやコンチとは、「コンチネンタルスタイル」のことで、かっちりとした米国のトラッドスタイルや英国のブリティッシュスタイルに対して、イタリアやフランスといった欧州のエレガントなスーツスタイルを総じてそう呼ぶ。

貫いた「コンチネンタルスタイル」

ゆったりとした柔らかなラインで、ウエストはやや絞ってシェイプさせて、肩のラインは湾曲して肩先が上に立ち上がったコンケーブドショルダー。一般的にはこんなスーツだ。60年代にはアイビーに対抗して「コンチ」と呼ばれ、70年代には「ニュートラ」と呼ばれて流行ったが、現在は主流のスーツスタイルではない(ただ流行は繰り返すもので、モードの世界ではフレアパンツやパンタロンスーツがトレンドの兆しを見せている)。

ゆったりと柔らかなラインの「コンチネンタルスタイル」が何より似合った(1993年、テレビ朝日「眠狂四郎」懇親会で)

田村正和氏のスーツスタイルは、まさにこのコンチである。何が流行ろうとも生涯ずっとヨーロピアンスタイルを貫いた人であった。

着こなし方としてはつねにノータイで、おそらくはシルクの無地のイタリアンカラーシャツを胸元のボタンを開けて着ていたり、逆にマオカラーシャツ(断じてバンドカラーシャツではない)のボタンを全閉めで着ていたり、ひと目で上質なものとわかる無地のハイゲージのタートルニットを合わせたりしている。

コンサバな服を着ているのにエロく見える“エロサバ”ことファッションディレクターの干場氏は、「ニューヨーク恋物語」のオープニングで井上陽水の「リバーサイドホテル」の曲に乗ってニューススタンドで新聞を買う、ティールブルー(青緑)のジャケットに黒いシャツと黒いパンツを合わせていた田村正和氏の格好に憧れたという。

干場氏は服の着こなしうんぬんというよりも、ドラマの中でニューヨークの街で「プリティ・ウーマン」のリチャード・ギアにも勝るとも劣らない気障(きざ)でエロサバなジェントルマンを演じていた田村正和スタイルそのものに憧れたんでしょうね。

筆者が田村正和スタイルと聞いてパッと思い描くイメージは、ラグジュアリーというよりエレガント。ブランドでいえば「レノマ」や「ジバンシィ」、靴は絶対に「グッチ」や「フェラガモ」、「トッズ」といったイタリアの伝統技法であるマッケイ製法のきゃしゃなスリッポンタイプだ。ところが、プライベートでは「ジョルジオ・アルマーニ」を着ていたという。これはちょっと意外であった。

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