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アート&レビュー
エンタウオッチング

2021/6/3

エンタウオッチング

「今回の場合は、原作の『父』というエピソードに、割れたガラスが地面にグサグサグサッと刺さるシーンがあるんです。このコマを見たときに、圧倒的に映画にしたいと思いました。その1カットから世界が広がりました。夜の学校に父子で行く、父親がボクシング部の部室でサンドバックを叩く、そこに現れる女の幽霊。この幽霊を誰にやってもらうか……。必死に考えました。お断りされるのを覚悟で松井(玲奈)さんにお願いしました。よくぞ引き受けてくれました。

監督は本当に素敵なお仕事だと思います。映画に必要な場所を探すロケハンはとてもロマンチックですしね。一体どこで、このシーンを撮るのか……? その場所を見つけるまで探し回るというね……。そしてキャスティング。一体誰に、この役を演じてもらうのか……? 映画音楽は誰にやってもらうのか……? それをすべて決められるのが監督ですからね。とても贅沢な関わり方ができますよね……」

欲の深さが原動力に

ただ、3人の監督で1本の映画を作り上げるのは初めての経験。すべての撮影が終了し、それぞれが撮った映像をざっくりつなぐ“粗編集”を見る時はとても緊張したと、竹中は語る。

「すべてがつながった編集ラッシュを見るまでは、お互いがどう撮っているのか分からないですからね。初めて粗編集を見たときは、アクと毒をすごく感じました。ドスンときました。粗編は2時間以上あったので、それを刈り込んでいくことで、最初に感じたアクや毒が消えてしまう怖さも感じました。でも仕上がりは、とてもいい感じにまとまったと思っています。

孝之も工も、本当に監督として素晴らしくて、嫉妬します……。大橋裕之さんの世界のあれもこれもすべて俺が撮りたかったなって思ってしまう自分に気づいて、がく然としました。僕は監督としての欲がかなり深いんですね(笑)。

監督としてだけじゃないかも知れないです……」

(ライター 武田篤典)

[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]

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