ドコドコと心臓の鼓動のような振動

エンジンに「メインシャフト同軸バランサー」という機構を採用。鼓動感を強調しつつ、不快に感じる振動だけを打ち消しているという

加えて「鼓動感」の演出も素晴らしい。

4ストロークの単気筒エンジンは燃焼間隔が長いため、ドコドコと心臓の鼓動のような振動を発する。GB350のように排気量の大きい単気筒エンジンになるとその特性はさらに強まる。バイク乗りの間ではこれを「鼓動感」と形容し、好ましいものとして認知されている。だが、エンジン回転数が高まる高速走行や長時間走行では、手足がしびれて疲労しやすいなどの弊害もある。

GB350はエンジンに「メインシャフト同軸バランサー」という機構を採用し、鼓動感を強調しつつ、不快に感じる振動だけを打ち消しているという。この効果は絶大で、時速100キロメートルで巡航しても、不快な微振動がしっかりと抑え込まれているため、疲労感がとても少ない。心地よい鼓動感と快適性はトレードオフの関係にあるという、従来の認識をどうやら改める必要がありそうだ。

チェンジペダルは靴を傷めずに操作することができるシーソー式。つま先を蹴り上げてギアチェンジする一般的な操作のほか、ペダルを踏み込んでギアチェンジすることが可能だ

極低速でもエンストの不安がなく、しっかりと粘ってコントロールできるのは、低速トルクが豊かなロングストローク型エンジンの美点だ。

ただ、スロットルをラフに開けたときに、ビッグシングルらしい地面をガツンと蹴り飛ばす瞬間的な力強さがもう少し欲しいと思った。それでも排気量を考えるとこんなものかと納得して試乗を終えようとしたのだが、試しに標準装備されているHSTC(Hondaセレクタブルトルクコントロール)の作動をオフに設定してみたら、キック力が明らかに向上した。

HSTCは路面状況に応じてエンジンが発するトルクを最適化し、後輪の空転を抑制するための安全装備だが、安全を確保できるならオフにするのもアリだろう。

タコメーター(回転計)が省かれたシンプルなメーターまわり。何速で走行しているかがひと目で分かるギアポジションインジケーターを装備

インド市場でのニーズを考慮したためか、GB350はスリムであることが身上の単気筒エンジン搭載車としては、かなり堂々とした車格である。15リットルの容量を持つ燃料タンクには、ボリュームのある形状を採用した。ライディングポジションは、リラックスしてどっしりと腰を下ろすタイプに。リアシートも大人がしっかりと乗れるスペースとクッション性が確保されている。これならタンデム(二人乗り)ツーリングだって十分対応できる。

ちなみにシート高は800ミリメートルで、身長170センチメートルの筆者だと両足の指の付け根が接地する。

ハンドリングはどちらかといえば穏やかな特性だが、ワイドなギア比とスロットルを開ければ、どこからでも加速するトルクフルなエンジンのおかげで、カーブが連続する道もイージーかつスムーズに駆け抜けられる。カタログスペックの通り、数値的なパフォーマンスこそ目を見張るものはないが、ライダーがエンジンと対話し、自由自在に操れるという意味ではスポーティーであるともいえる。

価格は55万円(税込み)。個人的にはものすごくリーズナブルだと思った。ここまで単気筒エンジン、ひいてはモーターサイクルの面白さを体感できるモデルは大型クラスを含めてもそうはないからだ。

GB350は既存のコンポーネントを寄せ集めて作ったお手軽なレトロバイクとはまったく異なる。いにしえのモーターサイクルが持つ「テイスト」を、ゼロから徹底的に追求した力作であり、その出来栄えも見事だ。この成熟したモーターサイクルが日本ではなく、インドのマーケットから生まれたことに、一抹の寂しさと時代の流れを感じてしまうが。

ホイールはフロント19インチ、リア18インチという古典的なサイズを採用し、鷹揚(おうよう)な操縦性を実現。前後独立制御ABSを標準装備する
こちらは7月15日に発売予定のバリエーションモデル「GB350S」。ワイドなリアタイヤや、ショートタイプの樹脂製フェンダー(泥除け)を採用するなど、スポーティな仕様となっている

(ライター 佐藤旅宇)

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