そうして職務等級型の人事制度への改修、いわゆるジョブ型雇用の仕組み設計プロジェクトが始まりました。
その際に合わせて以下の問いかけもしてみました。
「ちなみに今回抜擢される方ですが、どれくらいの処遇をお考えですか?」
「中途採用する部長が1500万円を要求しているので、それに合わせざるを得ないかと思っています」
「ちなみに抜擢される方の今の年収は?」
「750万円です。年齢は28歳です」
「年収が倍になるんですね。ご本人はなんておっしゃってます?」
「逆に不安を感じているようです。あと社内の雰囲気が悪くならないか心配しています」
専務はそう答えながら少し苦笑いをされました。
誰が抜擢されているのか
「ちなみに彼を抜擢しようと考えた理由は、専門性ですか?」
「いえ。専門性だけなら他のメンバーも候補にあがりました」
「では特別な経験があるとか?」
「確かに、それは一つの理由かもしれません」
「20代で得られる経験は、それほど多くはなさそうですが」
「普通に考えればそうですよね。ただ、彼は新卒で入社してからの6年間、ずっとわが社の『×××をすべての人のものにする』という経営理念を徹底的に信じて、すべての行動軸をそこに置いてきたんです。いうなれば伝道者ですね」
「理念の伝道者ですか。それだけで部長職が務まるとも考えづらいのですが」
「もちろんデジタル領域での専門性を平均以上には発揮しています。ただ、ともすれば『他社の成功事例の焼き直し』とか『極端な路線変更』に陥りがちなデジタル化戦略を推進するに際して、ぶれない理念の軸を体現しているということが、今回抜擢した主な理由ですね」
そこまでお話を伺って私は、それはまさに「ブランドの伝承」に他ならない、と気づきました。
ブランドは作るよりも維持する方が難しい
その後、複数の会社で若手の抜擢についてご相談を受けました。
最近のことですから、デジタルトランスフォーメーションに伴うデジタル人材を求める企業がほとんどでした。
しかしそこで前述のお話をしたところ「弊社が抜擢すべき人材もまさにそういう人材だ」と、方向性をはっきり示されたのです。