2021/6/4

ケラー氏は、サメが磁場の地図のようなものを使って、目指す場所よりも南にいるように認識している可能性があると述べる。

ただ、実験はそれだけではなかった。

600キロほど北の磁場を再現してみたところ、サメは居場所をつかめず、どちらに向かってよいのかわからないようだった。

磁場の地図が機能する・しないの違い

サメの地図が南でだけ機能するのはなぜだろうか。ケラー氏が考える可能性の一つは、サメを捕まえた場所の北には陸地しかないので、そこから北に行ったことがないからというものだ。

反対側の南側にはまだメキシコ湾があり、若いサメでもそちらに向かったことがある可能性が高い。この点から、サメは自ら泳ぎ回る中で磁場を学習し、それをつなぎ合わせて地図を作っている可能性があるとケラー氏らは考えている。

「今回の発見から、サメはウミガメと同じような方法で磁場を使っている可能性があることがわかります」と、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の感覚神経科学者で、ウミガメのナビゲーションについて研究しているケネス・ローマン氏は述べる。

ローマン氏によれば、ウミガメのナビゲーションのメカニズムは、海で長い距離を回遊するサケなどの生物が使う方法とよく似ていることがわかっている。

「海を回遊する際に利用できる情報はかなり限られています。そのため、地球の磁場は非常に役立つ手がかりになります」とローマン氏は話す。なお、同氏はケラー氏の研究には関わっていない。

遺伝か、学習か

ウミガメの研究からは、磁場を読み取る能力の一部は遺伝、一部は学習によることがわかっている。つまり、ウミガメは遺伝と学習の組み合わせによってルートを認識する。

「サメの場合は、何が遺伝により、何が学習によるのかを判断することはまだできません。しかし、今回の研究はそのためのよい出発点となるでしょう」とローマン氏は話す。

ドイツ、オルデンブルク大学の感覚神経科学者であるヘンリク・モウリットセン氏も同じ意見で、サメが地図を学習するかどうかを判断するのは時期尚早と考える。ただし、鳥の磁気感覚の研究はもっと進んでおり、鳥は「間違いなく学習する」という。

同氏はサメについて、「電気を感知する特殊な感覚器官が関わっているのかどうか、それがどう働くのか気になります。その仕組みが明かされるときが本当に楽しみです」と言う。

もう一つ、ケラー氏が期待している実験がある。米国東海岸にすむウチワシュモクザメは、生まれた場所から北にも南にも移動する。彼らがメキシコ湾にすむサメよりも精巧な地図を持っているのかどうか、それを突き止めることだ。

(文 TIM VERNIMMEN、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年5月11日付の記事を再構成]