日経ナショナル ジオグラフィック社

2014年に発表されたマラウイの病院を対象にした調査によれば、必要とする患者の22%しか酸素を利用できなかった。19年に発表されたナイジェリア南西部の病院を対象とした調査では、酸素を必要とする子どもの20%にしか投与できなかった。また、20年にオーストラリア、メルボルン大学の小児科医で、パプアニューギニア大学の小児科学非常勤教授であるトレバー・デューク氏らが学術誌「Archives of Disease in Childhood」に発表した研究では、パプアニューギニアの医療施設で酸素プログラムを改善した結果、子どもの死者数が40%、肺炎による死者数が50%それぞれ減少したことがわかった。

このように医療用酸素が人命を救うという明らかな証拠があるにもかかわらず、実際に医療機関が酸素を入手しようとすると、酸素を供給する方法をはじめ、多くの複雑な課題に直面する。

地域の事情に合った供給システムが必要

酸素の供給システムは、医療機関の規模、都市部か農村部かという環境の違い、コミュニティの所得水準などによって異なっている。

世界各国の大規模な医療機関では、酸素貯留タンクを使用している。このシステムでは、病院の敷地内に液体酸素用の巨大なタンクが設置されており、酸素は配管を通して病院内に送られ、水道の蛇口のように酸素を止めたり流したりすることができる。

だが、小規模な医療機関にとって、このシステムは法外なコストが必要だ。タンクの酸素を補充するには、独占状態にありがちなガス会社を利用しなければならない。また、配管設備の建設に巨額の投資が必要となるが、デューク氏は、低所得地域では「配管設備は必ず漏れる」と言う。

こうした事情から、農村部や低所得地域では、ガス会社が酸素プラントで充てんする酸素ボンベで、医療用酸素の供給を受けている。だが、高圧ボンベは重くて危険なため、特に酸素プラントから数百キロ離れたへき地の村では高額の運搬費用がかかってしまう。ボンベの数も常に不足している。通常、ボンベの酸素は大人ひとりが1~3日使用できるだけの量しかないので、医療機関は多くの在庫を用意しておく必要がある。

一方、1970年代から出回っている酸素濃縮器は、ゼオライト系の鉱物に空気の窒素を吸着させて酸素を濃縮することができる。患者は、チューブを通して鼻から酸素を吸入する。1台の酸素濃縮器で、同時に2人の子どもに酸素を供給できるが、安定した電力供給が欠かせず、それがいつも保証されているわけではない。

「停電は命取りになります」とホークス氏は言う。「もし2、3分間でも停電すれば、子どもは死んでしまいます」

そこで、酸素格差を埋めようと取り組む人々の多くが、太陽光発電式濃縮器に注目してきた。この濃縮器の場合、酸素濃縮の仕組みは同じだが、通常の電力ではなくソーラーパネルと電池で作動する。酸素発生器の利用も増えている。これは、一般に酸素濃縮器を大型化したもので、中規模の地域病院が、地域内の小規模施設のそれぞれに酸素ボンベを充てんして供給できる。

さらに所得レベルの低いコミュニティ向けには、太陽光発電式濃縮器と酸素発生器の併用が最適だとデューク氏は言う。だが、デューク氏がパプアニューギニアの農村部の病院で行った20年の研究結果から、酸素プログラムを成功させるには、別の側面の投資も必要であることが明らかになっている。

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酸素があるだけでは不十分