2021/5/20

自分についてのお悩み

Q 在宅ワークでも、サッと仕事に取りかかれるようにしたい
A あえて最後の1ページを残す「ツァイガルニク効果」を活用
◆ツァイガルニク
女性心理学者。同じタスクを課した2グループで、タスクを中断したグループのほうが内容を覚えていたことから、未完了の課題は記憶に残りやすいとする、ツァイガルニク効果を提唱。

在宅ワークで、気持ちの切り替えがしにくいなかで、仕事にサッと取りかかるには、前日の仕事を少し、残しておくのがポイントだ。「仕事はキリのいいところまでやってから終わりにしたいと思いがちですが、人間には、達成できなかったものや中断しているもののほうが気になる心理があります。これを実験で明らかにしたのがツァイガルニクです」。

テレビ番組で、「この後、思わぬ事件が!」などとナレーションを入れてCMをまたがせるのも、同じ効果を狙ったもの。

「目標を達成したり、完結したりすると、緊張感が解消して記憶に残りにくいのですが、やり切ってしまわないことで頭の中に残る。翌日、仕事のスイッチが入りやすく、中断中に新しいアイデも生まれやすくなります」。

Q エステに通信教育、もうやめようと思いつつやめられない
A 「コンコルド効果」による認知バイアスから抜け出せ
◆コンコルド効果
超音速旅客機コンコルドへの開発投資が巨額になり、途中で採算が取れないという認識があったにもかかわらず、中止することができず、膨大な損失を出したことに由来する。

前払い制のエステや、教材費を払い込んでしまった通信教育など、これまでにかけた金額のうち、回収不可能な費用のことを、経済学では「サンクコスト(埋没費用)」という。

投資や公共事業などで、継続すると損失が大きくなる恐れがあると分かっていても、サンクコストを惜しんで続けてしまうケースがしばしばあるが、これと一緒。「途中でうまくいかない、自分には向かないと思ってもやめられない。費やしたお金や時間の元を取ろうとして、かえって損失を大きくすることを、コンコルド効果、あるいはコンコルドの誤謬(ごびゅう)といいます」。

自分ではこれまでかけた時間とお金を秤(はかり)にかけて、論理的に判断をしているつもりでも、実は、思い込みによる思考のエラーが起きている。認知バイアスに陥っていると思って、踏ん切りをつけよう。

Q ランニング、英検、書道、何をやっても長続きしない
A 「WOOPの法則」で障害を事前に想定した計画を
◆WOOPの法則
米国の心理学者ガブリエル・エッティンゲンが体系化した、円滑に目標を達成するためのプロセス。WOOPは、Wish(願望)、Outcome(結果)、Obstacle(障害)、Plan(計画)の頭文字。

フルマラソンを完走したい、英検1級を取りたいと、意気込んで始めても、子どもが熱を出して休まざるを得なくなったり、仕事が立て込んで続けられなくなったりしがちだ。目標を持っているほうが成功の可能性は高まるといわれるが、願っていれば実現するというわけではない。そこで知っておきたいのがWOOPの法則だ。

「ナポレオン・ヒルの成功哲学、『思考は現実化する』がポジティブ思考を重視することへの、反論として登場した理論です」。まず、目標と実現した場合の成果を具体的に考える。その上で、起こり得る障害を事前にすべて書き出して、克服するためにはどうしたらいいか、なぜできないかを考え、自分が実行できるプランを立てたほうが、実現に近づくとしている。

つい言い訳ばかりしてしまう(イラストはイメージ=PIXTA)
Q つい言い訳ばかりしてしまう自分が疎ましい
A 「セルフ・ハンディキャッピング」になるより、過程を褒めよう
◆セルフ・ハンディキャッピング
プライドが傷つかないように、周囲への言い訳や弁解で他者からの評価を保持したり、努力を拒否することで、結果が今ひとつでも仕方がないという形で、自己評価を維持したりする。

学生時代、試験前に限って部屋を片づけたり、「寝ちゃって全然勉強できなかった」と友人に話したりした経験はないだろうか。「人は自尊心が傷つくことを嫌います。だから、試験前に部屋の片づけに時間を使うことで自分自身に対する言い訳や、『寝ちゃった』という周囲に対する言い訳をつくる。あらかじめ自分にハンディキャップを与えておくことで、自己嫌悪や評価の低下を回避する、セルフ・ハンディキャッピングという自己防衛をしているのです」。

スケジュールがいっぱいで企画を十分練る時間がなかった、細部まで検討する余裕がなかったなどの言い訳をすることで、自尊心のダメージは減るが、「挑戦する勇気を阻害するデメリットもあります。努力した過程を褒めることで自尊心を高め、セルフ・ハンディキャッピングから抜け出しましょう」。

Q 会議で発言するようなアイデアが思い浮かばない
A 関心を向けていれば「プライミング」で素早くキャッチ
◆プライミング
先行する刺激(プライマー)を処理することで、後続する刺激(ターゲット)の処理が促進されること。逆に、先行の刺激が後続の刺激に抑制的に働く場合はネガティブ・プライミングという。

「みりん」と10回言った後に、「鼻の長い動物は?」と聞かれると、思わず「キリン」と答えてしまう。子どもの頃に、こうした10回ゲームで遊んだことがある人は多いだろう。

「頭の中は意外に単純で、今、動いているもの、考えていることに次のことが影響されます。それまで注意を向けていたものや、関連している刺激には、脳は優先的に反応する、プライミング効果があるのです」

例えば、いつもパッケージデザインのことを考えていると、脳は、街の景色のなかからでも関連が高いものを見つけようとする。他のパッケージデザインに自然と目が行ったり、電車の車体を見ても、スーパーの野菜の陳列を見ても、それが後続刺激となって、新たなパッケージデザインのヒントになったりするのだ。

Q 男性同期より早めの昇進、実力とは思えず自信が持てない
A 「インポスター症候群」に陥るより、自分を受け入れよう
◆インポスター症候群
インポスターは「詐欺師」の意。成功を収めた人が、能力以上に評価されている、周囲をだましている気持ちになり成功を回避する心理状態のこと。特に女性に多いとされる。

「能力を過大評価されている」という思いがあれば、成功していても楽しくない。「実力がないことがいつか見透かされるのでは」と感じていると、人と深く関わることを避けるようになってしまう。

「女性が成功を回避するこうした心理状態は、1970年代のアメリカで指摘され、後にインポスター症候群と名づけられました。もし、自分の成功を肯定できず自信が持てないとしたら、インポスターの心理状態に陥っているのかもしれません」

背景には、男性より劣ると思い込まされてきた社会的環境や、自身の成功よりも組織や周囲との同調を求められる状況がある。「男性も運やヒキで出世しています。それを自分に責任を負わせることはありません。今の自分をそのまま、受け入れることから始めましょう」。

この人に聞きました

齊藤 勇さん
立正大学名誉教授。1943年生まれ、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。カリフォルニア大学留学。専門は対人・社会心理学。日本ビジネス心理学会会長。『図解 心理学用語大全』(誠文堂新光社)、『今日から使える行動心理学』(ナツメ社)ほか、多くの編著書・訳書・監修書がある。

(構成・文 中城邦子)

[日経ウーマン 2021年1月号の記事を再構成]