苦手な上司、嫌な部下 心理学に学ぶ上手な接し方

日経ウーマン

2021/5/20
上司や部下にはどう接すればいい?(イラストはイメージ=PIXTA)
上司や部下にはどう接すればいい?(イラストはイメージ=PIXTA)
日経ウーマン

せっかちな上司にやる気のない部下……働く女性のお悩みは尽きません。知っておくことで発想の転換が図れる、イライラやモヤモヤがスッキリ晴れて気持ちがラクになる心理学を、立正大学名誉教授で対人・社会心理学を専門とする齊藤 勇さんに解説してもらいました。

先輩・上司のお悩み

Q 苦手な上司がいて、いつもイライラさせてしまいます

A 話すスピードや、メールの長短などを「ミラーリング」でまねる
◆ミラーリング

相手が笑ったら笑う、コーヒーを飲んだら飲むなど、同調した行動を取り、文字通り鏡のような振る舞いを意図的にすることで、相手に好意を持ってもらいやすくなる効果。

人がイライラするのは、間が悪い、ペースが遅いなど、相手とテンポが合わないときだ。逆に仲がいい友人とは、ランチを食べ終わるタイミングも笑うポイントもきっと似ているはず。

「仲のいい人と行動が合ってくるのは、好意のある相手を無意識のうちにまねるからです。それを応用して、鏡のように相手に同調した行動をするミラーリングで、類似性を意図的につくり出し、相手を気持ち良くさせることができます」(齊藤さん)。

例えば、早口の相手には早口で話す。メールも「明日、出張なのでよろしく」と簡潔に書く上司なら、丁寧なフレーズを延々と書くよりは、「かしこまりました。何かあればメールでご連絡します」と簡潔に返す。心理的テンポを合わせることで、上司のイライラを軽減できる。

Q 先輩との間に溝を感じて、気軽に質問もできない

A 「自己開示」でまずは自分について話すことから
返報性の原理

相手からしてもらったことに対し、「お返し」をしなければと感じる心理。敵意を向けられれば敵意を返し、譲歩してもらったら譲歩したくなる。自ら心を開くほど、相手も開いてくる。

先輩に溝を感じているとしたら、先輩も同じように感じているはずだ。相手ともっと気軽に話せるようになりたければ、「まずは、自分の情報を伝えることから始めましょう」。趣味や出身地、好きな食べ物などを話し、自分のことをもっと知ってもらおうと自己開示すれば、相手も心を開いてくる。

「『返報性の原理』といって、自己開示には相互性があります。例えば、過去の失敗談などを話すと『こんな話までしてくれるなんて』と感じ、相手もそれに応えて『実は、私も…』と話したくなるのです」。示した自己開示が親密なら、相手の自己開示も深くなる。

ただし、自己開示には相互性があるからこそ、関係が深まらないうちに、急に踏み込んだことを話題にするのはNG。相手を身構えさせてしまい逆効果になりかねないので、段階を踏もう。

Q アシスタント的な仕事ばかりで、いつまでたっても評価されない

A 得意なことを見せるなど、「ハロー効果」を有効に使おう
◆ハロー効果

ハローとは、仏像や聖人の背後に表現されている光背のこと。望ましい特徴があると、その人に関わるすべてのものが、望ましいものに見えてしまう。認知バイアスのひとつ。

冴(さ)えない上司が、クラシック音楽に造詣が深いと分かっただけで、知的で穏やかな人物に見えてしまったりする。「何か1点、秀でたものがあったり、目立つ特徴があったりすると、それが人物全体に反映していると思ってしまうことを、ハロー効果といいます」。

例えば、エクセルが得意な人なら、きっと仕事のダンドリも効率的、企画を理論的に組み立てることができるだろう……と、全体の印象まで変わってしまう。これを利用すればいい。日ごろの会話で、SNSの人脈が広い、地元の地理に詳しいなど、自分の得意ジャンルをアピールしよう。企画書に専門家の意見や、上司が認めている人物のコメントを引用して、説得するのもハロー効果。七光は、上手に利用すればいい。

Q すべてが「とりあえず」で、決められない上司に手を焼いている

A 2つのいずれかを選ばせる「チョイス・メソッド」で迫る
◆チョイス・メソッド

選択肢を2つに絞ることで相手を追い込み、判断をコントロールする方法。買わないという選択肢がない2択を提示して売りつける、悪徳セールスの手法としても利用されている。

優柔不断な上司に「どうしますか?」と尋ねても、「とりあえず、様子を見てからだな」と言われるのがオチ。そこで有効なのがチョイス・メソッドだ。「デートに誘うときに、『今度の日曜日に一緒に遊びに行かない?』と聞くのではなく、『今度の日曜日に一緒に出かけようよ、遊園地がいい? 映画がいい?』という選択肢の提示の仕方で、決断を迫るのがチョイス・メソッドです」。

このとき、選択肢を多くしすぎないことも大切。「最近の実験社会心理学の研究では、人は選択肢の多い状況を求める一方で、選択肢が多くなるほど、実際に選択した結果への満足度は低下することも明らかになっています。『選択のオーバーロード現象』といいます」。

決められない上司には、限られた選択肢を提示して決断をさせることがポイントだ。

Q 新しく誕生した部署で、知り合いもなく心もとない

A 「スモールワールド現象」で意外に世界は狭いと考えよう
◆スモールワールド実験

ミルグラムが1967年に行った実験。ランダムに選んだ人たちから、知り合いへの受け渡しを通じて手紙が特定のAさんに届くかを調べた。21.6%以上が届き、平均5.2人を経ていた。

転勤や転職で、新しい職場となれば、誰しも緊張し不安に感じるだろう。しかし、知り合いの知り合いをたどれば、世界中の誰にでも行き着くと、仮説を立てて実験した人がいる。結果は、最初に決めた人に、多くの人から6人目で行き着いた。「このようにつながっていることをスモールワールド現象といいます。それぐらい世間は狭い。逆にいうと、人間は実際よりも世界を広く感じてしまっているのかもしれません」。隣の席のこの人も、自分の友人の友人の……と思えれば、新しい環境への不安も軽減されるはずだ。

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