そもそも専門性を高めるニーズは以前からあった

実は人事についての判例では、本人にとっての不利益になるような異動は認められない、という考え方は少なくありませんでした。そして不利益の内容は、給与面だけでなく、どんな仕事をするのか、そこで活躍できるのか、といった基準で判断されることもありました。

今回の名古屋高裁の判例についてはいろいろなミスマッチがありそうですが、多くの会社ではすでに、総合職だけでなく専門職を生かすための異動基準を持ちつつあります。

一般的に専門職型とか複線型人事といわれるもので、課長、次長、部長として昇進する管理職としてのキャリアだけでなく、専門職として昇進するもう一つのキャリアを用意する人事制度です。

主流派はまだまだ管理職としての総合職ではあるのですが、専門職として認定された人はもちろんその専門性を発揮できる部署で活躍し続けることになります。だからおかしな異動の対象になることもない仕組みなのです。

専門性を認める複線型人事制度が整備されている会社では、個人としてもどちらのキャリアを目指すか、じっくり考えることができます。

そして昨今では、総合職としての異動のデメリットを意識する人が増えつつあります。

たとえば大企業であれば様々な部署を異動しながら総合職として出世するキャリアが本流でしょう。しかしそのためには数年おきに転勤し、新しい部署で人間関係をつくり、仕事の進め方を学びなおすことも受け入れなければいけません。また、そうして異動を受け入れ続けたからと言って、出世競争に敗れてしまえばキャリアの踊り場で立ち止まることになります。

気が付けば「部長ができます」という経歴しか示せず、有利な条件での転職もできない状況で会社にしがみつくしかなくなる、という人たちも数多くいるのです。

そんな状況を見てきた若い人たちが、早めに専門性を限定して、そこでしっかりとキャリアを積もうと考えるようになったとしても決しておかしなことではありません。

働き方が変わろうとする中で、むしろ総合職が少数派になり、専門職が多数派となる時代が近づいているのかもしれません。

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自分で考えるキャリアの軸は成果に置く
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