母親譲りの素朴な味付け 女優・浅田美代子さん食の履歴書

浅田美代子 女優=三浦秀行

国民的人気テレビドラマ「時間ですよ」でデビューしたのが17歳。以来、芸歴は50年近い。浅田美代子さんは今も昔も、旬の食材のシンプルな味わいを好む。料理好きで毎日のようにキッチンに立つ。素朴な味付けは母親譲りだ。

旬のもの、今の季節ならタケノコ、ふきのとう、ビワなど、初物を食べるときのドキドキ感が好きだ。掘り立てのタケノコやふきのとうは、あの苦みやえぐみがたまらない。トマトは夏に採れる露地物の青臭さがいい。

浅田さんが旬の食材にこだわるのは、食べ物で季節の訪れを感じるのが好きだから。最近は一年中食べられる野菜も増えたが、どうなんだろうと思う。日本人は食べ物で季節の移ろいを感じてきた。そういうことを大事にしたい。

味付けはシンプルでいい。幼少期、浅田さんの好物は母の作る鶏のからあげだった。下味は付けない。揚げたてを大皿に山盛り、塩を軽く振って食べる。家族みんな大好きで競って箸(はし)を伸ばすから、すぐなくなった。からあげは今も好きだが、ニンニクやショウガなどで下味がついているものは苦手だ。シンプルに揚げて、塩かしょうゆで軽く味付けすれば十分だ。

母が作ってくれるサケ、卵、サヤエンドウの3色弁当が好きな普通の高校生だった浅田さんの日常は、ある日を境に激変する。都内・外苑前のイチョウ並木で突然、スカウトされた。

まず思ったのは「怖い」。当時、若い女性に声をかけて拉致する大久保清事件が世間を騒がせていたので、知らない大人にいきなり声をかけられ警戒した。

両親も反対するし、当時通っていた東京女学館高校は芸能活動禁止。教師も「体が弱いから無理だ」と反対したが本当は体が弱いわけではなく、ラジオの深夜放送に聞き入る余り寝不足だっただけだ。決断の理由は実はささいな事だった。あのとき、期末試験が近づいていた。芸能界に行ってしまえば、試験から逃げられるなと思った。

高校に退学届を出し、激動の日々が始まった。一夜明けただけで、こんなに生活が変わるのかと思った。「時間ですよ」の撮影は週に3、4日、当時は夜の歌番組が毎日のようにあった。「月刊明星」など芸能雑誌の取材も入り、睡眠は1日3時間ほど。食事はスケジュールの合間に5分くらいで取るしかなかった。

今も食べるのは早く友人たちにあきれられる。小学校では給食を食べるのが遅くて残されていたのに、あの時代に身についた習性は今も抜けない。当時は楽屋への出前が多く、TBSなら六本木、アマンドのチキンバスケット、テレビ朝日なら麻布十番、登龍の中華が好きだった。

芸能界に入ってからずっと、時には母、時には姉のように接してくれたのが樹木希林さんだった。よく一緒に食事に行った。

冬の足音が聞こえるころになると、「そろそろ行きますか」とフグへ。高いからおごるのもおごられるのもなしね、といつも割り勘だった。ランチなら安いからと洋食の小川軒にもよく行ったし、パレスホテルのローストビーフもお気に入りだった。

食事をしながら希林さんから多くを学んだ。今も忘れられないひとことは「お芝居は形でやるな。気持ちでやれ」。例えば悲しいシーンなら、涙を出そうとするな、悲しい気持ちでやれば必ず伝わると。希林さんから受け継いだ演技の基礎は今も守っている。

料理は好きだ。芸能活動をいったんやめたころ、同時期にアイドルを卒業し結婚した南沙織さん、麻丘めぐみさんと一緒にスーパーに買い物に行き、レシピを教え合ったこともあった。

日々、キッチンに立つ浅田さんが疑問に思うのが賞味期限。牛乳や卵などの食材、調味料などに記載される賞味期限を目にするたび、あれは作る側、売る側の都合であり、フードロスの原因になっているのではと思う。

子供のころから「食べ物を粗末にするな、残すな」と言われてきた浅田さんは、賞味期限が過ぎていても捨てずに、食べている。味噌やヨーグルトなど発酵食品の賞味期限は気にしないし、卵や牛乳は期限を過ぎても火を通せば問題ないと思っている。

今も友人が遊びに来ると、手料理を振る舞う。コンロはガスでないとだめで、はやりのIHは好きでない。「手間暇かけるより、ぱっと手軽に作る」のが浅田流。料理も人生もシンプルが一番いい。

【最後の晩餐】 炊きたての白いごはん、お供はサケかタラコ。体にいいからと一時期、玄米を試したことがあったが、なじめなかった。外食で食べる玄米はともかく、自分で炊くといまひとつ。体にいいとかよりも、おいしい方がいいから、最後は白いごはんにシンプルなおかずで。

旬の素材でイタリアン

イル カルディナーレ(東京・銀座)

GINZA SIX6階のイタリアン、イルカルディナーレ(東京・中央、電話03・3573・3088)がお気に入り。友人と3人で訪れ、料理をシェアして食べることが多い。よく頼むのが、前菜にスペルトコムギ入りの魚介のサラダ、パスタはお任せ、主菜はチキンのローストが好み。ワインは辛口の白を合わせる。店長の鈴木貴也さんは「その日に仕入れた生きのいい素材を使ったお料理をお薦めしている」という。

銀座ソニービルにあったサバティーニから移った料理長が腕をふるう。この日のお薦めパスタは、牛肉の黒こしょう煮のニョッキ。今の時期はホワイト・アスパラガスをオーブン焼きして目玉焼きを添え、オリーブオイルで仕立てた前菜か、ミモザ風の冷菜仕立てにしたサラダがお薦めという。

(編集委員 鈴木亮)

あさだ・みよこ 1956年東京都出身。「時間ですよ」のヒロイン役でデビュー。挿入歌「赤い風船」が50万枚を超すヒットとなり、レコード大賞新人賞に。ドラマ「寺内貫太郎一家」、映画「釣りバカ日誌シリーズ」などに出演。殺処分される犬、猫の保護活動にも注力する。

[NIKKEIプラス1 2021年4月24日付]

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