
「キルシュクーヘン」のフタを開けると、大きなケーキがどんと収まっている。なかなか壮観な眺めであります。見た目はふわふわしているけど、食感はしっとり。ココア風味で、甘さはかなり控えめ。付属の粉砂糖をたっぷり振りかけるとちょうどいいくらいだ。合間に顔を出すサクランボのコンポートがほんのり甘酸っぱくて、いいアクセントになっている。
サイズは大きいが軽量なので、キャンプや登山などのアウトドアに持っていくのにもいい。野外で本格ケーキが食べられるなんて、うれしいじゃありませんか。

本格スイーツ缶には和テイストの商品もある。黒潮町缶詰製作所(高知県黒潮町)の「黒糖の濃厚和ショコラ」と、「栗と黒糖やわらか寄せ」だ。
「黒糖の濃厚和ショコラ」はみずみずしく、一見するとようかんのよう。しかし口に含むと甘いココアの味が広がるし、そのあとでこしあんの風味が顔を出すという、驚きが連続する和洋折衷味。こんな商品を考え出すなんて、同社の開発部にはすごい人がいるんですなァ。

「栗と黒糖やわらか寄せ」は、黒糖が香る水ようかんの中に栗の甘露煮が入っている。黒糖の濃厚和ショコラと違って、完全な和のスイーツだ。濃い緑茶が欲しくなる。
黒潮町缶詰製作所の缶詰は、この和スイーツ缶を含めてすべてが7大アレルゲン(エビ・カニ・小麦・ソバ・卵・乳・落花生)不使用で造られている。なぜなら、どの缶詰も防災備蓄食として使えるように開発されているから。
アレルギー体質の人は、避難所に届いた食料をそのまま食べるわけにはいかない。アレルギー物質が含まれていれば症状が出るからだ。過去の災害時にも、避難所で食物アレルギーが怖くて白ご飯しか食べられなかったり、アレルギー物質が入っていないものに代えて欲しいと依頼したら「わがままだ」と言われた例があったりしたという。であれば、最初からアレルギー物質を含まない商品を造ればいいというのが、黒潮町缶詰製作所の考え方なのだ。
今回紹介したスイーツ缶は、どれも普段から食べたくなるほどクオリティーが高い。ということは、自分の気に入ったものをまとめ買いし、食べたい時に食べ、ある程度減ったらまた買い足せば、いざという時に備えた「ローリングストック(日常備蓄)」になる。みなさんもぜひ、お気に入りの一缶を見つけてください。
(缶詰博士 黒川勇人)
1966年福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界50カ国の缶詰もリサーチ。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。