「神田屋」池袋西口店。店名表記は「大衆スタンド神田屋」

テンアライドは、居酒屋業界のレジェンド企業だ。近年は業績が悪化しているのと、広報に積極的でないので、さほど注目されることが少ないが、居酒屋業界として初めて株式公開している。ワタミの渡邉美樹会長は、「つぼ八」のフランチャイジーとして20代でスタートしたが、将来は一部上場企業を目指していた。その時に言っていたのが「目指すはテンアライド」だった。

専門的な話になるが、テンアライドは居酒屋として早くからCK(セントラルキッチン)活用を実行していた企業の一つ。ギョーザや豆腐、初期のヒット商品の「サイコロステーキ」もCKでカットし、店舗は鉄板で焼くだけで済んだ。そうした現場調理の効率化は、いまサイゼリヤが有名だが、居酒屋業界ではテンアライドが先行していたのである。

池袋西口店の「こぼれ!ミニいくらねぎとろ丼」(550円)

もう少し、テンアライド話を許してほしい。創業者の故・飯田保氏は、都内の有力酒販店岡永の生まれ。オヤジさんが強烈な人だったらしく、5人いる男子に「起業せよ」と常々言っていたらしい。長男は岡永を継いだが、「日本名門酒会」という地酒を広げる組織を作り、次男だった保氏は、岡永の取締役をなげ打って、テンアライド創業に突き進む。ちなみに、この兄弟はすごくて、3男が「オーケーストア」の創業者である勧氏、末弟の亮氏は、セコムの創業者だ。起業家一家なのである。

「神田屋」は、そうした息吹を持つ会社の中で生まれた。

正直、ここ数年のテンアライドの業績は良くない。債務超過寸前でもあった。客単価は創業時の「天狗」が約2500円、「テング酒場」が約2000円だが、「神田屋」は、今回その下を狙っている。可処分所得が下がる中で、テンアライドは、より使いやすい低価格路線を実験している。業界的には、値上げや客単価アップという戦略がメジャーになっている中では、王道酒場を自認する「天狗」としては「よりおいしく、より安く」を徹底することに活路を見いだしているのだろう。

競合店は、町のセンベロ酒場。それと養老乃瀧が開発して大成功した「一軒め酒場」だ。逆に言うとチェーンでのライバルは「一軒め酒場」くらいしか見当たらない。「天狗」が得意としたビジネス街立地だけでなく、郊外の駅前立地でも成り立ちそうだ。FC化も視野に入れていることだろう。

客としては、その方向性はうれしい限りだ。さらに業界的になるが、テンアライドは、現在は保氏の子息の永太氏がトップを務める。3代目の健太氏は、すでにテンアライド入りしており、2019年には代表権を持つ専務になった。ただし、まだ30代と若い。「天狗」のブランドを捨てた「神田屋」は、3代目を救うことになるのだろうか。良い店だけに「一軒め酒場」同様、広がってほしい。

(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)

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