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演歌の素晴らしさを実感したのも、今回の発見です。演歌を集中して聴く機会もなかなかなかったので、新しい扉が開いたように感じます。当たり前のことですが、皆さん、歌がうまくて、とてもすてきです。僕も歌手なので、ジャンルは違えどすごく興味をひかれるし、リスペクトします。

4月4日に放送された『はやウタ』より。(右から)西田あい・氷川きよし・中村美律子・井上芳雄・保里小百合(写真提供:NHK)

演歌の方は、基本的に1年にひとつ新曲を出すそうです。1年かけてキャンペーンして売っていくので、1曲にかける思いが熱くて、僕の想像以上のものがありました。皆さん、小さいころから歌が大好き。おじいさん、おばあさんが演歌好きで、お父さん、お母さんに習って、といった方も多い。歌い方も三味線を弾きながらだったり、振りがあったりして、それぞれキャラクターが濃いし、もともとお相撲さんだったり、アイドルだったりと、バックグラウンドもいろんな方がいらっしゃいます。曲調も、聞き慣れないと似通って聞こえるかもしれないけど、もちろん1曲1曲違うし、テーマも異なっています。

そして何よりも、演歌は声が魅力。うまいのは大前提で、声の個性がはっきり出ます。声楽だと声の美しさが重要で、善し悪しの基準も発声法で明確だと思うんです。でも演歌は、しわがれていたりするのも哀愁があって独自の魅力になる。そこが声楽との大きな違いです。ただ美しければいいというものではなくて、人生の悲哀や機微を歌うことが多いから、声に味があるというのが大事。2回目の収録のとき、ゲストの山内惠介くんをよく知ってはいたのですが、いろいろ演歌を聴いているうちに、「惠ちゃんの声も一発で分かるな」と声の魅力をあらためて実感しました。

演歌にはこぶしという、ほかのジャンルの歌にはない要素もあります。僕があまりよく知らなかったということではありますが、知れば知るほど新鮮だし、興味がどんどん湧いてきます。これから番組で、歌謡界のいろんな方にお会いできるのが楽しみです。

僕は歌を聴くのも好きなんだ

僕は歌手なので、基本的には自分が歌うことに集中していたし、どういう歌をどんなふうに歌うかが興味の対象でしたが、歌番組の司会をやらせていただくことで、ほかの人やジャンルの歌に興味を持つようになったのは、自分でも驚きでした。ゲストの方が歌ってらっしゃるときは、司会者席で聴いているのですが、やっぱりいいんですよね。トークをした後に歌うのって、歌手はすごく緊張するのですが、そのプレッシャーのなかでの素晴らしいパフォーマンスを間近で見られるのは、すごく幸せなことです。僕は歌を聴くのも好きなんだ、とあらためて気づきました。

放送回はちょっと先になりますが、実は僕も歌っています。オープニングで歌って、そのまま司会をやる回があります。そのときは、緊張してあたふたしました。やっぱり歌手は大変だと(笑)。僕の場合は「歌う司会者」というのが個性だと思うので、今後もやっていきたいと思っていますが、歌手と司会者は全然違うものですね。

『夢をかける』 井上芳雄・著
ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第92回は5月1日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)


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