日経ナショナル ジオグラフィック社

コンピューターで鎖かたびらの正確な復元に成功してから、研究チームは同じような沼で発見された衣類のコンピューター・モデルを使って、フル装備の戦士が仮想の鎖かたびらを着用した場合に、それがどのように見え、フィットし、機能するかを確認した。

「このようなアプローチはとてもいいと思います」。米ウィスコンシン大学グリーンベイ校の名誉教授で、今回の研究には参加していないグレゴリー・アルドリート氏はそう言う。「こうした情報は、このようなシミュレーションを行い、さまざまな変数を調査して初めて得られるものです。彼らはそれを行ったのです。これがその成果です」

これを着て馬に乗れる? 走り回れる?

コンピューター・モデルで示されたのは例えば、鎖かたびらの上にベルトを着用することで、鎖の重さをより均等に分散させ、戦闘中のずれを防ぐことができるということだ。また、クッション性や戦闘時の保護のために厚手のフェルト製の下着を着用しても、十分な余裕と伸縮性があることもわかった。

考古学的調査で発掘された鎖かたびらの多くは、断片的であったり、腐食や損傷が激しかったりするが、ヴィーモーセ・コートは実証実験にもってこいだった。世界で最も保存状態の良い鎖かたびらの一つであることから、スコットランドのセント・アンドリュース大学の考古学者で、今回の研究には参加していないジョナサン・コールストン氏は、「このような実験の対象としては最適です」と述べる。

研究者たちは将来的に、この技術を他の鎖かたびらにも応用したいと考えている。「保存状態のよい2、3個の輪をもとに全体を復元することができます」とビンホーフェン氏は言う。

その結果、古代の武具師とその顧客にとっての優先順位を知ることができるかもしれない。体の防護を重視した、重く硬いものが好まれたのか? それとも、軽くて柔軟なものが好まれたのか? 「バーチャルリアリティー(仮想現実)では、現実では絶対にできないことを試すことができます」。ビンホーフェン氏は言う。「これを着て馬に乗れるだろうか? 走り回れるだろうか? と」

この研究は「とても役に立つ」かもしれない、とコールストン氏は言う。「着用中の動きだけでなく、飛び道具や刃物、殴打用の武器の攻撃により、実際にどのぐらいの傷を負ったかを評価するのにどこまで応用できるのか、興味深いところです」

コンピューター・シミュレーションの実証実験として始まった本研究だが、すでに新しい知見が得られている。シミュレーションによると、鎖かたびらの持ち主であったゲルマン人戦士は、柔軟性を重視し、大きくて細い輪からなる軽量な鎧(よろい)を選んだようだ。

さらに、綿密な調査のおかげで、別のことも判明した。ビンホーフェン氏によると、これまで考古学者たちは、ローマ帝国の外の「蛮族」は、自分たちで鎖かたびらを作るほど洗練されておらず、輸入した鎧やローマ軍団から略奪した装備に頼っていたと考えてきたという。

しかし、ヴィーモーセ・コートの首の開口部は、首の両側に付いたストラップを用いる仕組みで調節できるようになっており、開口部を広げたり狭めたりしてフィット感を変えられた。「これはローマ帝国では見られないユニークな特徴です」。ビンホーフェン氏は言う。「この点からだけでも、技術や社会について多くのことがわかります」

一方、今回の技術は、ビデオゲームや映画の特殊効果にも応用できる。ビデオゲームのプラットフォームの計算能力が向上していることもあり、デザイナーは大小のスクリーンに鎧をリアルに描写できる。そしていつの日か、あなたの近くの博物館にも登場するかもしれない、とビンホーフェン氏は期待する。

「バーチャルな世界でこれを着られたら、すごく楽しいと思いませんか?」

(文 ANDREW CURRY、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年4月5日付]