イチゴ大国ニッポン、甘く大きく品種開発300種類以上

珍しいイチゴ、みつはるを見せる相葉英樹さん
珍しいイチゴ、みつはるを見せる相葉英樹さん

スーパーなどの果物売り場を赤く染めるイチゴ。きらぴ香にかおり野など初めて見る品種も多い。なぜ日本ではイチゴの種類が多く、次から次へと新種が出てくるのだろうか。

消えたもの含め300以上?

首都圏の台所、大田市場(東京・大田)。イチゴ専門の仲卸、文孝商店を訪れた。

扱う品種はとちおとめのような有名な品種からおぜあかりん、初恋の香りなど珍しいものまで20種を超える。

社長の星野和一さんは「イチゴ歴」52年。「サクランボやトマトも含めて赤い食材は売れる。なかでも老若男女が好きなイチゴはケーキやフランス料理にと彩りを演出できる点も人気の理由。日本のイチゴは世界一の芸術」と断言する。

最近のトレンドは品種改良による大型化。これまで多くの品種が登場したが「味がよくても病気に弱く、生産量が安定せず普及しなかったものもある」(星野さん)。

開発競争を乗り越え、輸送に堪え、味も生産量も安定していることによって生き残ったのが東の横綱とちおとめ(栃木県)、西の横綱あまおう(福岡県)だ。

日本のイチゴは何種類あるのだろうか。栃木県農業試験場いちご研究所特別研究員(取材時点)の岩崎慎也さんによると、「消えたものも含めると300以上はある」。

イチゴは消費者からの人気が高く、価格も安定しているため、自治体が農業振興を目的に品種開発を支援した。

ハウス栽培の普及により北海道・東北など寒冷地にも産地が広がったほか、腰の高さに苗床を設ける栽培方法が高齢化の進む農家の作業を軽減した。

種苗法のもと、新種は品種登録により権利が保護される。あまおうは福岡県内でしか栽培を認められていない。

各地の品種開発は「欠点を克服するため絶え間なく続いている」(岩崎さん)。例えば栃木県で1985年に品種登録された女峰。春になり時がたつにつれ実が小さくなり、酸味が増すことが欠点だった。

これを補おうと品種開発が進み、96年に品種登録されたとちおとめが栃木県産イチゴの主流となった。岩崎さんは「とちおとめの後継として、2回り大きいスカイベリーがかなりの勢いで伸びている」と語る。

評判のいい品種を試す

めったにお目にかかれない希少品種も探してみたくなった。イチゴ狩りができる千葉県山武市の相葉苺園が珍しい品種を中心に、25種類を栽培していると聞いて訪れた。

2代目園主の相葉英樹さんは「消費者の間に新しく珍しいイチゴを食べたいニーズが高まっている」と話す。

相葉さんがもぎ取ったのは桃薫(とうくん)という名のイチゴ。丸みを帯び、一口かじるとジュワッと果汁があふれだし、風味が口の中に広がった。香りは桃そのもの。小さな完熟の桃だ。

桜のようなピンクの花が咲き実の断面が白い桜香(千葉県山武市の相葉苺園)

一般的なイチゴは白い花を咲かせるが、桜香(おうか)の花は桜のようなピンク色。トロピカルな爽やかな甘みが特徴だ。通称「くろいちご」といわれる真紅の美鈴は、濃い赤色でしっかりとした甘さがある。

数々の希少なイチゴのなかでもみつはるは「ここでしか食べられない」と相葉さん。農業試験場を退職したイチゴの専門家と共同で、紅ほっぺととちおとめをかけあわせて開発した。実は細長く、甘みと酸味のバランスがよくてみずみずしい。一口にイチゴといっても、個性の違いに驚かされる。

「評判がいい品種を試し、土地や気候などに合うものを探してきた」。相葉さんがこれまでに試した品種は40~50種に上る。次回はよつぼしという品種を取り寄せて栽培する計画だ。新型コロナウイルス禍前、相葉苺園には年間約2万人が訪れ、大半がリピーターだった。

イチゴの魅力に取りつかれた相葉さんらの努力に思いをはせながら、スーパーなどの売り場で改めておいしいイチゴを探してみたくなった。

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菓子用、酸味と香り大事

ショートケーキには小粒のイチゴをスライスして挟むとよい=メゾン・ド・フルージュ提供

イチゴはスイーツにも欠かせない。イチゴ菓子専門「メゾン・ド・フルージュ 苺のお店」を運営するミュウ(京都市)社長の渡部美佳さんは菓子に使う際、甘みはもちろん「酸味と香りも大事」と話す。生クリームなど甘い素材に負けないようにするためだ。

ショートケーキのような生菓子には小粒のイチゴをスライスして挟む方がよい。焼き菓子には「果肉が赤いものを使うとおいしく見える」(渡部さん)。酸味が強い小粒のイチゴだと上手に仕上がるそうだ。生産量が安定しているとちおとめは味に外れがあまりないという。

(高橋里奈)

[NIKKEIプラス1 2021年4月10日付]

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