映画「ノマドランド」キャンピングカー生活の女性描く

日経エンタテインメント!

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「ノマドランド」はベネチア国際映画祭の金獅子賞、トロント国際映画祭の観客賞を受賞し、アカデミー賞有力作の1本と目される作品だ。

音楽を担当したのはルドヴィコ・エイナウディ。監督は「彼とファーンは『自然へのつながり』という共通点があり、彼の音楽を使うことにしました」と話す。(ウォルト・ディズニー・ジャパン配給)(C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.

アメリカ・ネバダ州、60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)は不況のあおりで仕事と住居を失う。亡き夫の思い出を胸にキャンピングカーに乗り、町を出る。各地を訪れて短期の仕事で生活費を稼ぎ、夜は車中で眠る現代のノマド(遊牧民)の暮らしを始める。彼女は行く先々で同じノマドたちと出会い、交流を重ね、新しい生き方を探していく。

原作はジェシカ・ブルーダーの『ノマド 漂流する高齢労働者たち』。数百人のノマドを取材して書き上げたノンフィクションだ。主演のマクドーマンドが原作にほれ込み、プロデューサーのピーター・スピアーズと共同で映画化権を獲得した。「この本を読んで、ワゴン車で各地を巡ることに対して抱いていたロマンチックな気持ちがすっかり打ち砕かれました。なぜ経済的な選択として多くの人がノマドという生き方に傾いているのかが、正確に説き明かされていました」(マクドーマンド)

主人公のファーンに悲壮感はなく、颯爽(さっそう)と生きている。代用教員を務めていた頃の教え子にスーパーで会って「先生はホームレスになったの?」と聞かれても、「“ハウスレス”、別物よ」と誇りを持って答える。ファーンのキャラクターは、マクドーマンド自身の生き方や考え方を投影して創り上げられた。「ファーンにユーモラスな面と個性を期待通りに出してくれました。ユーモアはこの映画を重苦しくて憂鬱にさせすぎないためにも重要でした。フランシスは天性の持ち味で、その心配をさっと取り払ってくれました。役に面白味と温かみを加え、他の出演者のガイド役になってくれました」(クロエ・ジャオ監督、以下同)

ファーンと心を通わせるノマドの1人、デイブをデヴィッド・ストラザーン(右端)が演じる。ファーンとデイブの物語も、マクドーマンドとストラザーン自身の関係性を反映した(C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.

実在のノマドが数多く登場

ファーンが出会うノマドたちは様々だ。経済的に困窮して放浪を余儀なくされている人もいれば、定住という常識にとらわれず、車上生活を選んだ人もいる。劇中には実在のノマドが数多く登場する。撮影にあたり、マクドーマンドはノマドたちと実際に路上や仕事場で交流し、荒野や岩山、森の中へと分け入った。「映画のポイントは、ノマドの世界に身を置き、その生きざまを知り、経験談を聞くことにありました。ファーンをこの映画の狂言回しにしたかったのです。しかし、彼女の存在が他のノマドの個性や輝きを超えすぎないよう、配慮しました」

(C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.
(C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.

ノマドとともに映画の重要な役割を果たすのが、アメリカ西部の雄大な自然だ。ファーンは険しい岩山、広大な荒野、砂漠地帯、自然公園を渡り歩く。「ノマドと共に時間を過ごすと、岩についてや、太陽が昇る場所はどこかなど、私たちが都市に住んでいることで失ってしまったことを誰かが語ります。今だからこそ、自然が癒す力を人としてこれまで以上に理解できます」

コロナ禍の前に撮影は終わっていたが、コロナ禍の今、不安な世界を生き抜く活力を本作は与えてくれる。アカデミー賞にノミネートされており、授賞式は4月25日に催される。

(ライター 相良智弘)

[日経エンタテインメント! 2021年4月号の記事を再構成]

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