日経ナショナル ジオグラフィック社

米イリノイ州シカゴにあるデポール大学の古生物学教授である島田賢舟氏は、このような体の構造をもつサメはまったく予想外だったと言う。恐竜時代以前の古代ザメは多種多様な体形をしていたが、白亜紀(1億4500万年~6600万年前)までにはより現代的な体形に進化していたと考えられている。

アクイロラムナは、多様な形の奇妙なサメが、これまで考えられていたよりもはるかに長く存在しつづけていた証拠になるかもしれない。「今回の論文で提案された体形と濾過摂食のライフスタイルには非常に説得力があります」と島田氏は言う。

この白亜紀の海洋生物の化石は、今日のマンタのように海中を「飛ぶ」魚の最古の例の一つだ(IMAGE BY WOLFGANG STINNESBECK)

そもそも化石はサメなのか?

しかし、この新しい生物がマンタのようなサメだとすべての専門家が確信しているわけではない。米カリフォルニア州にあるハンボルト州立大学の古生物学者アリソン・ブロンソン氏は、「著者らが記載した特徴には珍しいものが多く、その解釈に疑問を感じる点がいくつかあります。私は、この注目すべき新たな化石のさらなる調査に期待しています」と語る。

論文では皮膚について言及されているが、軟らかい組織のため痕跡しか残っておらず、それが本当に皮膚によるものなのか、それとも微生物マットのような皮膚に似た物質によるものなのかなどを外部の専門家が判断できるほど詳しく示されてはいない。

また、この魚が水中に浮かぶプランクトンなどの小さな食べ物をこし取って食べていたのであれば、今日のウバザメやメガマウスなどの濾過摂食性のサメのようにとがった小さな歯をもっていたかもしれない。歯が見つかっていればこれらのサメの進化的関係を判断するのに役立つのだが、今回の化石では見つからなかった。

「この標本の歯が1本も保存されていなかったのは本当に残念です。歯があれば、正確な分類学的類縁性を特定できたのですが」と島田氏は語る。

この動物が濾過摂食性のサメであったという論文の解釈は、今後の発見や追加の分析によって確認する必要があるだろう。この解釈が正しければ、アクイロラムナは、現生のサメたちが同様の行動をするようになるずっと前に、海でプランクトンをこし取って食べていたことになる。

このサメは、白亜紀末の大量絶滅により海洋生物種の約75%が死滅する前に、ある種の濾過摂食がすでに進化していたことを教えているのかもしれない。メガマウス、ジンベイザメ、ウバザメの祖先を含む他の濾過摂食性のサメは、世界の海が回復した後に進化したものだ。

研究チームが言うようにアクイロラムナがウバザメの変わった親戚であるとすれば、古代の海にはまだ発見されていない奇妙なサメや海洋生物がおそらくもっとたくさんいたに違いない。「サメやエイの化石記録は、幅広い年代からまんべんなく見つかっているという点では良いのですが、絶滅した多くの種の体形は依然として謎に包まれています」とブロ氏は言う。もしかすると、これまでに発見された歯の中には、奇妙な体形の動物のものもあるのかもしれない。

ギリシャ語で「大きな歯」を意味する学名をもつ史上最大の巨大ザメ、メガロドン(Otodus megalodon)でさえ、歯と椎骨にもとづいて記載されているだけで、実際の姿についてはさまざまな解釈がある。アクイロラムナのような例外的な化石は、古代ザメの多くが科学者の予想をはるかに超えた奇妙な動物であった可能性を示唆している。

「バジェシージョのような場所で完全な骨格を発見する機会があれば、さらなる驚きがあるかもしれません」とブロ氏は言う。

(文 RILEY BLACK、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年3月22日付の記事を再構成]

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